GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第39回】

2020/12/04 品質システム

1.リスク
 GMPは、ハードとソフトのバランスとよく言われる。ハードとは設備のことであり、ソフトとは、手順であり、ルールのことである。その設備に見合ったルールが必要となる。設備が最新のものをそろえても、その運用ルールが適切でなければ、医薬品の品質を維持することができない。最新の設備なら、その作業も自動で動き、洗浄もCIPで、自動的に行うであろう。その動作もバリデーションされており、人が介することも少なく、汚染の心配もないかもしれない。しかし、その操作は、人が行わなければならない。その設定を間違えることで、検証されている動作を行わないリスクもある。古い設備でも、その作業がきめ細かく、手順化されていて、ヒューマンエラーが起こることがないよう作業者への教育訓練が徹底されているならば、却って、リスクは低減されているかもしれない。当然、最新の設備のメンテナンスは、細部にわたり、キャリブレーションや定期の点検項目が定まっていることが肝心である。コンピュータ化されている管理項目やデータ管理は、CSVなど検証されている必要がある。古い設備なら、メンテナンスする点も最新設備より少ないかもしれない。ハードとソフトが、結び付けられ、バランスが取られ、リスクが提言されなければ、その品質は保証されない。
 コロナ禍の中で、感染対策と経済対策をアクセルとブレーキに例えられている。つまり、ロックダウン(都市封鎖)をし、経済にブレーキをかけることで、感染拡大を阻止する狙いである。感染対策と経済対策は、相反するものと言える。そのアクセルとブレーキのバランスは難しい。経済を活性化させれば、人が動き、感染を拡大する恐れが生じる。GMPの場合、品質部門と製造部門の考えが対立することがある。品質への影響するリスクが生じたときに、安定供給を確保すべきという意見と品質の不安から出荷否判定すべきと意見が分かれることがある。「品質の悪いものを安定供給のために市場へ出すことをGMPは禁じている。」当然、不適合品など明らかに品質劣化しているなら、市場へ出してはならない。しかし、不適合のような明らかな品質の問題がない場合がほとんどであろう。環境モニタリングや保管管理での温湿度など、リスクはあるが、製品品質試験において、不適合となることは少ない場合が多い。しかし、その試験結果だけでは、品質を保証することはできない。加速や過酷安定性試験結果から、品質に影響しないと判断するであろうが、その考えに問題ない保証が取れるであろうか。その安定性データを取得する際の包装容器も加味して検討しなくてはならない。再試験検査をしたとしても、そのサンプリングは、そのロットを代表していると言えるか考えるべきである。
 ICH Q9 品質リスクマネジメントのガイドライン1)には、「品質リスクマネジメントの活動は、常にではないが、通常複数の分野の専門家からなるチームが担当する。チームを編成する場合には、品質リスクマネジメントプロセスに精通した者に加え、適切な分野の専門家(品質部門、事業開発、技術、規制、製造、営業・マーケティング、法務、統計、臨床等)が含まれるべきである。」との記載がある。リスクを考える時、その立場により、そのリスクの影響度について、異なる考えとなる。それぞれの立場から、そのリスクの影響度、発生度を考え、議論を尽くさなければならない。立場が異なる者が議論することで、いろいろ角度から、患者にとって、最も有益なものにできる。製薬会社は、患者のため、医療のため、常に貢献できるよう努めなければならない。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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