エッセイ:エイジング話【第17回】

茶碗が香る

 パトカーに追跡された自家用車が歩道に乗り上げ数十メーターも走り、30歳代の女性を轢いてしまいました。また高齢者かと思うと、白い高級車を運転した30歳代の女性は、なぜ逃げたのかも覚えていないと語っていると伝えられました。
・・・
 東京の三越本店でやきものの個展があり美しい茶碗に魅せられたとき、その茶碗の作者、辻村唯(つじむらゆい)氏から伺った話とエピソードからはじめます。
 日本橋の交差点に近い新館からエスカレータで、本館六階にある美術画廊へ至る通路をゆくと、薄緑色の物体が横たわっているのが目に留まり、他のお客さんへぶつかりそうになって引き寄せられました。
 近づくと、オープンな展示台の脇に作家さんが一人でおられました。遠目で見えた物体は、こちらに口を開いて横たわっている壺であり、その前面に茶碗がいくつか並んでいました。
 私がかがんで見入っていると、「手に取って見てください」と話しかけられ、傾斜地につくられた窯の写真が飾られていたので、「薪で焚く窯ですか?」と尋ねると、「椎茸を栽培した木をもらって焚いています」と答えられ、茶碗を手に取り「どうりで良い香りがします」って言ったら、「えー」と笑われました。
 辻村唯氏は、「窯は一人で焚け」と師匠である辻村史朗(つじむらしろう)氏から言われ、燃料も薪一辺倒ではなく、予熱にはバーナーの併用も工夫し他力に頼ることなく、文字通り一人で焚いた作品だと打ち明けられました。その時に求めた茶碗は大事に私の工房を飾っています。
 


辻村唯さんの茶碗 (筆者所有)

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます