ドマさんの徒然なるままに【第15話】



第15話:八つ墓穴・前編


金田二耕太郎、GMDPコンサルタントとして色々な会社を見て来ているものの、想定外の状況に遭遇することもある。簡単なご相談のはずであったが、奇妙奇天烈な事態に。金田二耕太郎の指摘事件簿、第3弾*1。今回の相手は、その存在自体が不可解。「祟りじゃ~っ! 工場の祟りじゃ~っ!」と、わけの分からないことを言い出す者まで出現。さー、どうする金田二耕太郎。

《注》本話はフィクションであり、登場する個人企業は
   すべて架空のものです*2

【第一幕:依頼】
タジミ製薬*3・本社工場の工場長室で、
金田二:GMPについてのご相談とのことですが、何か問題でも? 御社、業界内でも有名なくらいレベルが高い優等生じゃないですか。それにも拘らず、ご相談なんて、どういうことなんですか?
 
寺田工場長:私、実は転職組でして、現在のタジミ製薬本社工場の工場長を務めさせて頂いて丸4年になります。入社当時は、私も世間の評判通り、GMPレベルもPQSを踏まえた品質システムもかなり高いと思っており、日々そのレベルの維持向上に勤しんできたつもりでおりました。ところが、努力の割に向上が図れないと言うか、頭打ちになっていると言うか、特にこの数年は、工場内のあちらこちらで「何か変だな?」と疑問を抱くようになってきました。
 
寺田工場長:工場長という立場もあり、製造管理者を筆頭に原薬と製剤の各製造部、品質管理部並びに品質保証部の各部長、彼らはGMP組織における各部門の管理責任者でもあるのですが、ヒアリングも行いました。また、製品品質照査や自己点検報告書をはじめ各種報告書についても私なりにレビューしています。結果的に問題がないということにはなるのですが、ただ何となく、明確な根拠はないのですが、不自然さと言うか、曖昧さと言うか、何とも言い難い不安と不信に駆られるのです。そこで、一度プロのコンサルタントに相談し、私のような素人には判らない問題点の有無をチェックして貰おうと考え、先生にお願いした次第です。
 
金田二:そうなんですか。でも、別に品質に多大な影響を及ぼすような逸脱が発生したとか、回収騒動が勃発したとかというわけじゃないですよね。
 
磯川製造管理者:はい、そういった事態は発生しておりません。私も工場長と同様、転職組の製造管理者なのですが、むしろ他社での経験と比べても、むしろ問題は少ないほうだと思います。でも、工場長がおっしゃるように、何か変なんです。それは、私も感じております。
 
金田二:「♪変な工場、だから変な工場。そうです、私が変な工場です♪ だっふんだ!」*4、なーんちゃって。おっと、失礼。
 
寺田工場長:結果として何も判らなかった、なんてこともあるかと思いますが。先生のお力で、問題点らしきものが見つかり、改善に対する何か光明が見えてきたら、いいなと思っております。
 
金田二:分かりました。やれるだけのことはやってみます。取り敢えず、現状調査ということで、今日と明日の2日間お邪魔させて頂きます。
 
寺田工場長:工場施設内の立入り・文書の閲覧・ヒアリング等については、関係者に既に伝えてあります。今日の主たるお相手は、森品質保証部長がしてくれます。彼女は、我々と違い、本工場でのGMP組織立ち上げ時から在籍しており、生き字引のように工場のことを知り尽くしています。それでは、宜しくお願い致します。ちなみに、今回の調査は、私と磯川製造管理者によるビジネスにおける品質向上の立場としての依頼であり、GMP監査ということではありません。そのため原薬製造部長の梅本さん、製剤製造部長の竹本さん、品質管理部長の里村さん、品質部門長の森さんにも「顧客監査とは無関係のビジネス向上の一環としての調査です」と伝えていますので、その点を宜しくお願いします。
 

【第二幕:概要説明】
タジミ製薬・本社工場の会議室で、
 
金田二(心の中で):何だかんだ言って、結局は引き受けちゃったからなー。普段の業務を見てりゃ分かるだろーに。おかしな点が何で分かんないんだろ。
 
森品質保証部長:先生、どこから始めますか?
 
金田二:通常の監査と同様の流れで行きましょう。貴工場は査察・監査慣れしているでしょうし、私としても、そのほうが取っ付き易いですから。
 
森部長:そうですね。では、概要説明・現場ツアー・書面調査の順で進めますね。
 
金田二:はい、宜しくお願いします。
 
森品質保証部長からタジミ製薬・本社工場の概要説明として、会社(工場)の概要 ⇒ GMP組織 ⇒ 文書体系(SOPリスト) ⇒ 査察・監査履歴がなされた。勿論、PQS運用の状況も含まれている。  
《筆者注》説明の流れに決まりはないが、ごく一般的な形を示した。  
 
森部長:・・・ということで、以上が本工場のGMP組織の運用体制となります。
 
金田二:製造管理者が薬剤師の磯川さんなわけですね。品質部門は品質管理部と品質保証部とから成っていますし、製造部門である原薬製造部と製剤製造部からも分離していますので、組織上の問題はないようですね。医薬品品質システムPQSの観点からもカバーされておられ、品質リスクマネジメントやCAPAも取り入れられており、マネジメントレビューも5年前から開始されていますね。中堅の製薬工場としては、かなりシッカリしたシステムでの運用になっているように思えます。
 
森部長:そうですね。今まで、PMDAや県庁の査察でも指摘を受けたことはございません。また受託製造をしていることもあり顧客監査もかなり多いですが、マイナーな指摘事項も稀でほとんど推奨事項だけです。
 
金田二:SOPについても、一通りのものが揃っていますし、特に漏れがあるとも思えませんね。さらに、GMP省令のみならず、PIC/S GMP対応にもなっていますしね。各SOPに関連しての記録類は、あとの書面調査時に確認させてください。
 
森部長:はい、必要なものは遠慮なく申し出てください。私としても、向上が頭打ちになっている理由が判り、改善が図れるのであれば、それに越したことはありませんので助かります。
 
金田二:では、続いて現場ツアーをお願いできますか?
   

【第三幕:現場ツアー】
原材料倉庫 ⇒ 製品倉庫 ⇒ 原薬製造エリア ⇒ 製剤製造エリア ⇒ 包装エリア ⇒品質管理エリアの順に巡回し、その都度、必要に応じて作業員にヒアリングを行った。
《筆者注》現場ツアーの流れに決まりはなく、当該工場の施設配置にも依るが、モノの流れの順に見て回ることが一番理解し易い。ただ、製品倉庫については、工場により、原材料倉庫の一画を使用している場合や、複数倉庫が敷地の一画にまとまっている場合などもあり、見学動線として無駄のない形で進められることが多い。
 
森部長:これで一通り現場を見て回ったことになりますが、他に見たい場所はありますでしょうか。
 
金田二:どこのエリアも、良く整理・整頓され綺麗になさっていますねー。原材料倉庫なんて、一番ラフな扱いをされる場所ですが、清掃も行き届いており感心しました。原薬と製剤エリアは当然としても、包装エリアは使用後の段ボール箱やパレットなどが不用意に置きっぱなしにされていることが多いですけど、御社は作業中にも拘らずキチンと片づけられていますよね。分析室も「作業中」や「運転中」の表示が明示され、HPLCの移動相表示も溶媒で流れて消えかかっていることもなく、シッカリしていますね。さすがです。
 
金田二:ただ、原薬エリアの担当者と製剤エリアの主任さんでしょうか。私が製造管理システムの確認質問をした際に、「工場の祟りがあるんですよ。」とか「工場の祟りがあるかもしれませんが・・・。」みたいな変なことを言ってませんでしたか?
 
森部長:そうでしたか? そんなこと言ってなかったと思いますが。あまり気にすることないんじゃないですか。製造現場の人たちって、GMP被害者の意識が強く、愚痴が多いですからね。
 
金田二:そうですね。ところで、SOPや記録の原本はどこに保管されていますか?
 
森部長:SOPは品質保証部で保管していますが、製造記録や試験記録については、それぞれの担当部署で保管しています。
 
金田二:それは、出荷レビュー後にそれぞれの担当部署に戻すという意味ですか?
 
森部長:はい、そうです。保管場所(キャパシティ)としての物理的な問題が一番大きいですが、自部署で振り返って見直すこともありますし、責任の所在の明確化という観点も踏まえて、そのようにしております。
 
金田二:たとえば、温度記録とか清掃記録とかいった環境記録については、どのように?
 
森部長:基本的には、それぞれの担当エリアに相当する記録については、自部署の責任でもあることから、それぞれの担当部署で保管しています。ただ、共通エリア等については、その責任範囲を鑑みて分けています。たとえば、原材料保管庫については品質管理部が、製品保管庫について品質保証部といったところです。
   
金田二:参考品や保存品及びその温度記録や出納記録も含めた管理記録等は、どこに?
 
森部長:担当部署は品質管理部ですが、製品倉庫の一画を区切って使用しています。製品倉庫自体の温度管理やその記録は品質保証部担当ですが、参考品・保存品エリアについては、品質管理部が担当ということにしています。倉庫全体とは別に、当該室への入退室や在庫記録のこともありますし、データロガーによりそこだけの温度も記録していますので。
 
金田二:リーズナブルな運用ですね。では、ちょっと休憩してから書面調査に入りましょう。記録類は準備されてますか?
 
森部長:はい、通常の査察・監査で必要なSOPや記録等の文書は一通り用意してあります。もし会議室に置いてなくとも、言って下されば直ぐにご用意致します。ちなみに、今回は査察や監査ではないので、基本的には私が応対します。もし、より詳細な内容を知りたい場合は、それぞれの担当者に来て説明して頂きますので、遠慮なく申し出てください。
 

【第四幕:書面調査】
タジミ製薬・本社工場の会議室で、

トイレタイムの休憩後、記録類の書面調査に入った。概要説明と現場ツアーでは特に問題があるとは思えず、むしろかなりハイレベルでキチンとした工場という印象であった。何が問題なのか、工場長や製造管理者が高望みし過ぎなんじゃないか。ふと、そう思ってしまう金田二であった。これこそが、当該工場の“祟り”とも言えるトラップであることにも気づかずに・・・。
《筆者注》書面調査の流れに一般的と言えるものはない。ただ、品目毎の調査なのか、システム全体の調査なのかといった違いによりチェックする文書が変動することはある。後者の場合には、製造記録や試検査記録は代表例ということになる。どちらにせよ、初回訪問であれば、必須要件のSOPをベースに、各事項の手順とその記録を一通りチェックするのが一般的である。大事なことは、どのSOPや記録であっても、質問に該当する箇所をパッと提示説明できるようにしておくことである。この迅速さは査察官や監査員の印象を左右する大事な要素でもある。


【第五幕:反芻そして整理】
書面調査を終えた、その晩、宿泊のビジルスホテルで、

その晩、金田二はビジネスホテルのベッドの上で、その日の概要説明・現場ツアー・書面調査による情報を整理すると共に森品質保証部長やヒアリングした現場の方々のコメントを述懐した。
 
金田二(心の中で):何か変だ。特に森部長が時折苛立ったような口調になっていた。私が「必ずしもそうじゃないんじゃないかなー。」といったコメントをしたときだ。彼女、この工場でGMP組織を立ち上げたときから居ると寺田工場長が言っていた。と言うことは、そのキャリアは相当長い。現場の主任さんなんか、何となく怖がっているようにも思えた。彼女に問題があるんだろうか?
 
金田二(心の中で):でも、彼女、確かに現場も含めて良く知っている。SOPも揃っているし、記録も漏れがない。ちょっと待て。SOP、確かに揃ってはいるものの、優等生過ぎると言った感がないわけではない。この工場のレベルとしたら、逆に出来過ぎとも言えるくらいだ。しかも、どこか他所から持ってきた「既製品のSOP」と言うよりは、「理想論のSOPが先にあって、現実の作業はその理想的SOPに合わさせられている」といった風にも見えた。記録も同じだ。作業し易いかどうかと言うよりは、「否応なしに書かせられている」と言った印象がある。
 
金田二(心の中で):森部長が仕切って、無理強いさせている??? まさか、そんなバカな! いや、ちょっと待て。時折見せた、彼女の苛立ち。確かに、自身が作り上げたGMP組織で、工場内の優等生として現在の品質保証部長という地位に至った。美人で頭も良い優等生となれば、私のようなよそ者の言葉は気に入らなくて当然と言える。特に不備があるわけでもないのだから。まして人一倍責任感が強そうだし。QA責任者として向いていると言えるが、逆に言えば、それだけ他人の意見に耳を傾けそうもない。
 
金田二:もし森部長が牽引としてではなく、ブレーキとして作用したら。そうか、私は「工場の祟り」にかかってしまったんだ!
 
そう思い立った金田二、ベッドから起き上がり、質疑応答1つ1つのヤリトリを再考するのであった。

後編に続く。。。


【徒然後記】
新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックが止まらない。信仰集団の危ない教祖様のような言い方をご容赦頂ければ、食物連鎖の長として、生物の長として、しかも寿命も延びて地球を君臨した気でいる人類の傲りに対する警鐘か!? それこそ「祟りじゃー!」になってしまうじゃないか。
さて、教祖様の話はひとまず横に置いておくとして、日本は世界的にも認められるご長寿大国、平均寿命が延びたことは悪いことではない。一方で、介護に疲弊した殺人や無理心中といった事件も頻発している。ニュースだけで悲しい、虚しい、やるせない。生理的・生物学的なことではなく、健康寿命が延びてこその本来のあるべき寿命。製薬企業は生命産業であり、健康産業のはず。その存在意義と使命は、疾病からの患者救済のみならず、健康と福祉の増進。その意味で健康寿命の延長こそが真の目的。
2020年、まだ第一四半期を終えたばかり、COVID-19が収束に向かことを期待しつつ、新たな医薬品・再生医療等製品が登場し、その恩恵として元気に生活できる方々が増えてほしいと願う。同時に、介護で苦しむ方々が少しでも減ることを期待する。『安全・健康と共にあらんことを May the Safe & Health be with you!』 

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*1:(天の声)また、横溝正史のパクリかい。今回は、有名な「八つ墓村」かよ。
(筆者)パクリではありません。タイトルをちょっとお借りしているだけです。
(天の声)それがパクリだということに、まだ気づかんのかい。
(筆者)別誌PTJ ONLINEコラム「GMDPおじさんのつぶやき」に、第1弾
    として第30話「犬神家の逸脱・前編」と第31話「犬神家の逸脱・
    後編」 を、第2弾として第34話「QPが来りて指摘する・前編」、
    第35話「QPが来りて指摘する・中編」と第36話「QPが来りて指
    摘する・後編」を盗み見し、面白がってたじゃない!?
(天の声)読者が呆れ返って読まないだろうから、可哀想に思い、読んであ
     げたまでじゃ。
(筆者)お前、ホントに性格悪いな!
(天の声)お前のよーな、つまらないアーティクルを書く者の味方だと思い
     なさい。私は、なんて慈悲深い神様なことか。
(筆者)てめー、ナルシズムの極致か? それとも悪魔の化身か?
 
*2:と言いつつ、内容の一部については、脚色してはいるものの、類似の状況に遭遇したことがあったりして・・・。
 
*3:(天の声)タジミ製薬? 八つ墓村に出て来る「田治見家」のことかい。
(筆者)あまり気にしないでくれる。
(天の声)その他にも八つ墓村の登場人物をパクッてるじゃないか。
(筆者)気にしないで、内容には直接関係ないし。
(天の声)ホントに安易な奴じゃのー。
(筆者)あんたに言われたくない。
 
*4:志村けんさんが、3月29日の夜にCOVID-19による肺炎のためお亡くなりました。享年70とのこと。筆者もたくさん笑わせて頂きました。残念です。天国では先立った方々を笑わせてください。ご冥福をお祈りいたします。
 

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