GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第28回】

2020/01/10 品質システム

1.脳の省エネ機能
 脳は基本的にさぼるように機能されている。それは、脳が体重の2%しかないのに、脳が全エネルギーの20%以上消費するためで、飢餓に対応するために必要な機能であったといえる。この省エネ機能は、得意の分野を優先しようとする傾向がある。ある技能を習得し、定例的な作業を行う上でも働く。つまり、ある技術を習得し、定例的な作業については、脳は余計な思考をせず、条件反射的に体が反応するように指示され、脳は、最小限の活動しかしないことになる。これは、決して悪いことではなく、例えば、スポーツにおいて、練習を積み重ねることにより、その反応が早くなり、俊敏な行動が可能となる。これは、「慣れ」とか「飽き」と言われるもので、脳に同じ刺激が繰り返されることにより、その刺激に対して馴化が起きる。

馴化(じゅんか、英: Habituation)1)とは、心理学における概念の一つ。ある刺激がくり返し提示されることによって、その刺激に対する反応が徐徐に見られなくなっていく現象(馴れ、慣れ)を指す。特に、報酬をもたらすわけでも有害なわけでもない中立的な刺激に対して生じやすい。馴化は刺激を特定して起こる。つまり、ある刺激Aに馴化しているときでも、別の刺激Bを提示された場合、生体は刺激Bにはちゃんと反応する。ヒトだけでなくほぼすべての動物が馴化を示す。学習や記憶の基礎研究でよく用いられるアメフラシの他にも、原生生物であるソライロラッパムシ(Stentor coeruleus)でも馴化が起こるという報告がある。


 定例的な作業において、脳は最小限度の活動で、その作業を行うことができるわけである。いわゆる、体が覚えている反応である。瞬時の対応が求められる行為には大変有効なものである。しかし、いつもの作業であるルーチンワークでは、通常の流れで処理してしまい、本来チェックすべきことが漏れてしまうことになる。それが慣れの問題点である。ベテランが何でこんなエラーをするのかと問題になることがある。慣れによる見逃しの原因と言える。ルーチンの作業では、慣れ親しんだ行為であり、リスクを感じないことも多い。問題点を見出すためには、客観的な視点も必要となる。作業の進め方に新人等が疑問を投げかけても、今まで、この方法で問題ないと片付けずに、客観的な視点から検討することも必要である。これもリスクマネジメントとして重要な点である。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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