GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第22回】

2019/07/05 品質システム

1.文書の保管
 文書として、紙ベース、電子媒体、写真媒体を含む様々な形態で存在することは、PIC/S GMPガイドライン等で示されている。紙ベースの記録も電子媒体の記録も同様にデータインテグリティを確保しなければならない。電子媒体の記録の場合、そのデータが紛失する対策として、バックアップ等の管理が必要である。MESやLIMSなどコンピュータシステムを利用しない紙ベースの記録を、バックアップしている製造所は少ないと思う。文書の保管設備で、火事等が起きた時の対策をするように指導した査察官もいるようである。PDFファイル等の電子媒体としてバックアップするのも一つの方法だが、多くのGMP記録をスキャンする手間は非効率的である。記録作成時から電子媒体として記録することを考えるべきであろう。バックアップせずに、文書の保存の方法を耐火性などの対策をするのも一つである。しかし、スプリンクラー等を設置すると、書類に水がかかり、判読できなくなる可能性もある。紙ベースの文書等の保管方法は、バックアップも含め対策が必要である。
 多くの製造所では、手順書や記録などの文書を持ち出す際に記録を残していることであろう。しかし、多くの製造所で、記録が紛失する事件は発生する。結局は、大騒ぎをして発見されていることだろう。文書の紛失は、文書管理が悪いのだが、保存する場所を間違えたり、担当者が持ち出してそのままになったりすることがほとんどである。電子媒体のデータでも、保存するフォルダー等をマクロ等のプログラムを組み、検証をしていれば、問題がないが、担当者がデータ保管するべきフォルダーを間違えたり、担当者自身のパソコンに保管したりすることでの紛失も考えられる。人が行う操作で間違いを0にすることは難しい。特に、慣れた操作ほど、思い込み等で、間違いが起こる。文書やデータの保管方法もリスク分析をし、紛失を起こさない管理方法を見出す必要がある。その為に、文書の保管場所、保管庫、保管棚ごとに、どの文書があるのか文書リストに明確に記載することが必要である。GMP文書は、多く人が閲覧する。文書を見つけやすくし、戻しやすくするために、そのルールをわかりやすいものとすべきである。
製品標準書にその製品のSOPや規格、試験方法をすべて入れ込む製造所も多いが、かえって管理ができなくなることがある。例えば、他の製品と共通の原料等の規格、試験方法を品目ごとにすべての製品標準書に入れ込めば、その原料に変更になった時、すべての文書を改訂しなければならず、改訂漏れが生じる可能性もある。包装工程のSOPも梱包方法など共通な部分も多いはずである。ラベル等異なる点のみを指図書に記載するなど製品により異なる点を明確にすることが重要である。作業者も慣れた作業だと思うと、手順書の確認がおろそかになる。いつもの作業と違う点を明確にすることにより、注意喚起ができる。製品標準書は、その製品の目次とするべきと私は考える。つまり、各SOPや規格、試験方法等の文書とのトレースが取れていれば十分である。
 紙ベースであれ、電子媒体であれ、データインテグリティとしてALCOAを確保することが必要である。Attributable(帰属性)として、その責任の所在及び管理者として、作成者や承認者を明確にするとともに、その保管場所も特定することが必要である。また、電子媒体であれば、監査証跡をとることが求められるように、紙ベースの場合は、持ち出し記録が必要となる。持ち出し記録を残すことにより、記録の紛失も防止できる。文書保存室への入室記録も残し、文書にアクセスした者として記録すべきであろう。
 
ALCOA
Attributable(帰属性)  記録が帰属でき、責任の所在が明確であること
Legible(判読性)             判読可能で、記録が理解できること
Contemporaneous(同時記録性)記録は観察、作業した時点で記録されていること
Original (原本性)    オリジナルデータ、または完全なコピーであること
Accurate (正確性)   結果と記録が正確であること

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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