医薬品委受託製造に関する四方山話【第11回】

24.商用開始直後のお話
 技術移転が終わり、3ロットのProcess Validationにより重要工程の重要パラメータをすべて抑えてさあ終わり...といけば本当に理想的なのですが、そうはいきません。ここまでの過程でやり切れるのは、多くの場合、スケールアップやプロセス、設備変更を中心とした重要な品質特性に関する「品質」に対する影響を中心に検討を進めてきたVerification、Validationであり、実は、他に検討しなければならないことが山ほど(ちょっと大袈裟ですが...)残っていることが多いのです。だから、実際の商用生産を通じてのContinuous Improvement (継続的改善)が、声を大にして重要視されている所以です。そういう意味では、Process Validationしてからのプロセス検証が実はとても大切な意味を持っています。特に、Validation終了後の最初の1年間の年次レビューもしくは、Validation終了後の一定期間のトレンド分析や逸脱発生時の対応などは、技術者として見落としてはならないポイントです。CMC研究者は、自社工場や受託CMOに技術移転をし、Process Validation完了で一丁上がり、後は移転先でしっかりやってください...となりがちですが、そのフォローアップが本当は最も重要な点で、それがなくては本当の技術者とはいえません。そこから得られる問題点をフィードバック検討して真に安定な生産プロセスに変化させることが、実はプロセス導入以上に大事なのです。だからといって、全部自分で対応する必要はありません。技術移転した工場やCMOから、そういった情報を収集できる信頼関係とシステムを構築しておき、定期的にデータ解析をしておくことと常に改善を目指す意識を頭においておくことです。 一方、商用生産実施側はどうでしょうか。Process Validation完了したのだから、もうこれで大丈夫だと思いがちなのは、委託側よりも受託側のCMOかもしれません。特に、現場から離れた管理系がそうなりやすい傾向にあると私の経験ではおもいます。製造現場こそ、この錯覚に注意しなければなりません。たった3回の実生産が成功しただけでもはや大丈夫といえるほど、医薬品製造は甘くないと考えるべきで、これから多くの試練(若しくはチャンス)が待ち構えているとみるべきなのです。試練なのかチャンスなのかは、どうこれからの製造を実施していくかの心構え、そして指導に委ねられるわけです。たとえば、原薬製造の最終工程が単純なエステルの加水分解で、その収率が精製工程も含めて標準90%だとします。皆さんはこの標準収率90%でいいと思い続けるでしょうか?思い続けるのであれば、それからの改善はおそらくないでしょうし、いや95%に改善できると思うのであれば、おのずと行動が変わるとおもいます。製造や試験をやっている人はまず自分の胸に手を当てて、自分は前者か後者かを考えてみてください。後者であれば、まず物質収支(マテリアルバランス)に注目するでしょう。100-90=10%はどこに行ってしまっているのかを分析することです。たとえば、反応率は99%(1%が副生物)、分離濃縮中のロスが3%、単離精製中のロスが6%だったとします。技術者であれば、当然のことながらこの9%のロスをいかに小さくするかの検討を開始するとおもいます。収率の話をしたので、ちょっと横道にそれますが、昨今のValidation、QbD等の様々な規制、ガイドライン等の影響でしょうか、品質に関するDataにフォーカスするあまりに、歩留まりとか収率といった製造の基本概念が薄れているようなValidation Reportを見かけ、がっくりした(実は頭がくらくらしました)経験が過去に社内でありました。まず、物質収支がどうなっているか、予定通りなのか否か、その次に品質の各データは...となっていくのが普通なのですが、まず重要品質特性となっていたターゲットとなる含量均一性や類縁物質、溶出性の評価と足早に行ってしまい、肝心要の投入量に対するアウトプットの記載や評価がなく(もちろん製造記録には記載されていましたが...)、そのレポートをマネージャーが承認してしまっているのです。言わずもがな皆わかっているのですが、収率は品質状況を推し量る最もクリアで重要なファクターなのです。いつも90%の標準収率で推移しているものが、突然100%や80%になったとすれば、他の品質パラメータがすべてノーマルだとしても、工程で何か異変があったと考えるべきなのです。だから製造標準書には、必ず理論収量、標準収量(率)の項目を入れ、製造記録書には対比して実績収量(率)を記載して、期待通りなのかどうかの評価をしなければなりません。そして、次は品質のトレンドです。PIC/S GMPに加盟申請し、施行通知にしっかり記載されましたので今後年次照査として、全品目実施していくことが規制要件となりました。弊社はすでに実施済みなので問題はありませんが、多品目を扱うCMOやジェネリック会社等今まで実施していなかったとすれば、これは大変膨大な作業が追加されることになります。しかし、本当は各品目の品質や収量、逸脱や変更等のプロセス情報を定期的にレビューし、改善するトリガーになると考えれば、非常にポジティブな話となります。技術者は、とかく年次照査はQAの仕事、俺には関係ないと捉えがちですが、その結果こそ自らが実施しているプロセスを改善する格好の材料ととらえて、考察・提案していくべきです。特にPV以降の最初の1年は、もう少し短いスパンで詳細に重要項目をレビュー・追跡していくことをお勧めします。そういったことを怠ると、今まで長期間にわたって、何の問題もなく継続されてきたプロセスに降ってわいたような突然の問題が起こったりするのです。
 

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