奈良から発信する“品質”のコ・コ・ロ──くすりの歴史と現場のいま【第6回】

第6回 ─ GMP適合性調査の現場から(3)「人の心が、品質をつくる」 ─

奈良県で薬務行政を担当している橋本です。
奈良県の製薬現場には、日々の積み重ねの中で品質文化を育てている企業が数多くあります。
前回に引き続き、適合性調査を通じて見えてきた“人と組織の成長”をお伝えします。

<2例目>ワキ製薬株式会社(奈良県大和高田市)
「品質とは人の心で守るもの」という信念を貫く企業、ワキ製薬株式会社です。
同社は、ミミズ由来の成分を取り出し、医薬品やサプリメントに加工し販売する企業であり、明治15年(1882年)創業されました。

私がこの製造所を初めて訪れたころ、まだ手順書の整備が十分ではなく、同じ内容の指摘を繰り返し受けることがありました。
記録や体制の不備というよりも、「どう改善すれば良いか」を現場で掴みきれていない―そんな印象を受けていました。

しかし、数年後に再び調査で訪れた際、明らかな変化を感じました。
従業員一人ひとりが主体的に質問し、改善点を議論する姿が見られるようになり、またGMP適合性調査の講評では、社長が必ず同席されるようになりました。
「指摘」とは“まだ良くなれる余地がある”という行政からのメッセージ―そう受け止め、社員にも笑顔で伝える社長の姿が印象的です。
その背景には、一つの出来事を契機に始まった、経営者としての深い“気づき”がありました。

1.転機となった“気づき”
今から数年前、ドラッグストア向け商品のロット印字が抜けたまま出荷されるという重大なミスが発生しました。会社として初めての製品回収―行政対応や信頼回復への対応に追われる中で、社長は「社会への責任」と「ものづくりの重み」を痛感したといいます。

2.“ルールで縛る”から“心で守る”へ
この回収を機に、同社はミスが起こらない仕組みづくりや管理体制の強化を進めました。
しかし、改善は思うように進まず、ミスが完全にはなくなりませんでした。

「問題の本質は何か?」

再度深く考え、そのとき社長が出した答えが、「問題の本質とは、技術的な不備や仕組みの欠陥ではなく、人の心の在り方にあるのではないか」というものでした。
この気づきをきっかけに、“ミスを防ぐ”よりも、“正しく在ろうとする心を育てる”ことを最優先に掲げます。
ミスが発生したら、まず社長自身が「会社の仕組みに問題があった」と受け止める。そのうえで、現場と一緒に原因を考え、再発防止策を話し合う。責任を追及するのではなく、「次にどう活かすか」を重視する姿勢を示すことが、社員の学びと自発性を生み出しました。

また、有事に備えた年1回の自主回収訓練を導入しました。
若手社員が主体となって、行政報告や対応判断を体験し、「原因が原料メーカーにあっても、責任は自分たちにある」という意識を体得します。
品質を高めるということは、単に不良を減らすことではありません。
過去の事例から学び、誠実に向き合う日々の積み重ねこそが、真の品質をつくり上げていくのです。

3.社長が現場に寄り添う“聴く経営”
同社の品質文化のもう一つの柱は、「風通しの良さ」です。

 

 

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