GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第11回】

2018/07/20 品質システム

1. ハードとソフト
 GMPでの作業環境は衛生管理基準書で求められる。衛生管理基準書として、作業者の健康、更衣、設備の清掃や防虫管理等を主に規定することが求められている。医薬品製造所の設備については、薬局等構造設備規則でその基準が定められている。しかし、GMPはハードとソフトのバランスであり、異物混入防止や交差汚染防止の観点として、製造所の設備の配置や動線を考慮し、作業のSOPを規定することが重要である。その為、新たな品目を製造する際、技術移管は重要で、今までの製造方法や開発時の工業化検討どおりに製造できない可能性もある。無理にその製造方法を再現すると、作業自体が設備と合わないこともあり、リスク分析を実施して、作業性に問題がないことを確認しないと、ヒューマンエラー等の逸脱を招くことになる。
 ヒューマンエラー防止には、行動科学的に作業を考えることも必要である。
 
デジタル大辞泉1)の解説
こうどう‐かがく〔カウドウクワガク〕【行動科学】
人間の行動を実証的に研究し、その法則性を明らかにしようとする科学の領域。心理学・社会学・人類学・精神医学などが含まれ、総合化・学際化などを特徴とする。

 ヒューマンエラーは作業が複雑など、作業がしにくいことが原因になることが多い。特に、学問として解析する必要はないが、その作業を行うにあたり、作業者の人数、それぞれの作業の分担と作業者の連携などリスク分析をして、設備の配置や動線を検討して、作業がしやすい環境を作ることが必要となる。器具等の保管場所で取違いが起こらないように収納場所を確保することも必要である。また収納場所が遠くて、いちいち保管場所まで行くのが億劫な場合、器具が製造現場に保管されてしまう一因にもなる。ハードとして、その作業室の広さが十分なく、ラインクリアランスが確保できないと異物混入や交差汚染を招くだけでなく、取違いなどヒューマンエラーを招くことになる。
 最新の設備である必要はないが、操作の間違いを起こすことが少ないことや清掃のしやすいことも、設備においては重要な点である。清掃のしやすさは、洗浄バリデーションで検証しているはずだが、きめ細かい性格や大雑把な性格など、洗浄方法で人による差が生じる可能性も考えなければならない。人はその日の体調などにより、仕事の出来に差が生じることも考えられる。プロならばそんな差が生じてはいけないのだが、恒常的に一定の品質を保持する作業ができる体制も確立しなければならない。
 SOPを作成する段階で、設備機器の誤操作や原料や器具類の取違い等ハード面から起こりうるヒューマンエラーがないか、リスク分析をすることが重要である。人や物の動線も考慮しなければならない。その設備を使用するにあたり、作業者の使いづらい面がないかを十分聞き取り、特性要因図2)等を用いるなどリスク分析を行うことが必要である。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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