GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第9回】

2018/05/12 品質システム

1 犯人捜しと叱責
 ある人に「GMPは犯人探しだから嫌いだ」と言われたことがあった。その人の言い分は、記録には作業者や実施者を記載し、逸脱等の処理において、その記録に逸脱の原因を記載しなければならないからである。製造記録や試験記録には、その実施した作業者や試験者を記載しなければならない。逸脱がヒューマンエラーならば、その逸脱となる作業は誰が起こしたかを明確にしないと、手順書の理解をしていない等の原因を明らかにできない。以前にもお話したが、「教育訓練の徹底」では、是正措置として不足である。犯人探しをして、叱るだけでは、何も問題の解決にはならないのである。しかし、多くの場合、「誰がやった!」「どうしてこんなことをしたんだ!」「手順書を読んで、二度と同じことをするな!」となる。誰もがシステムとして動いていないと思うことは明白だが、これが実情であろう。
 データインテグリティが求められる中、input情報は正しいことをどのように確認されているだろうか。分析装置からその結果データが正しく移行したことは、CSVとして、バリデートすればよい。しかし、人が入力する場合、誤入力のチェックが必要となる。入力データのチェックは誰が行うのか。どのタイミングでするのか、チェックで必ず発見できるか、問題は山積である。100%信頼できるためのデータとするために何ができるのか。リスクマネジメントとして、誤入力によるリスクを分析し、その低減化を図ることが求められる。メールの誤送信防止のために、送信をクリックすると、宛先確認するシステムを導入されることも多いが、つい、確認もせず、送信していないか。自分の作業に対しては、チェックすることが難しい。それは、自身の作業を正しいと思い込んでいるからである。ヒューマンエラーを起こした作業者に、間違いを確認しなかったのか尋ねても、確認した、と言い、間違っていることをその場で認識していない。指差呼称も間違い防止の一つである。チェックの記録も重要だが、チェックばかりに注視され、チェックすべき内容が見落とすことも多い。複雑で理解しにくいとエラーは起きやすいが、単純で簡単なことも長時間、繰り返すと見落とすことも多い。また、男女差別ではないが、目視検査は、女性向で、男性では、女性のように目視検査で検出はできないようである。適材適所ではないが、作業者の性格等も把握をし、作業に見合う人事配置も重要である。その為には、各作業に対する必要なスキルを明確にしなければならない。教育訓練を座学やOJTばかり考えがちだが、その能力の判定をすることも教育訓練である。そのスキル判定方法を適正に定め、個々の評価を行うことこそ、ヒューマンエラー防止のための教育訓練である。ヒューマンエラー防止の教育がより良い改善に向かうようPDCAサイクルとして進める必要がある。

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<図 PDCAサイクル>

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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