ラボにおけるERESとCSV【第124回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(94)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ ZZZZ社 2023/10/20
施設:原薬工場

■ Observation 3
ラボの管理が不適切である。特に

1.水分テストに使用している電量滴定装置に監査証跡機能がない。そのため、電子記録のレビューによる調査を十分に行うことができず、データインテグリティ対応における欠陥となっている。2020/12以降に多くのバッチが米国へ出荷されている。

2.安定性試験サンプルの管理にシート保護されたマイクロソフト エクセル スプレッドシートが使用されている。しかしこのスプレッドシートは誰でも保護を外してアクセスでき、なんの制限もなく変更できてしまう。このスプレッドシートはパスワード保護されておらず、QCシステムのフォルダーから削除できてしまう。

3.原薬の同一性試験をFTIRにより実施する際、標準物質と被験物質を同時にテストしていない。その代わり、分析法に記載された標準物質のスペクトル例と比較している。

★解説:Observation 3-1
水分テストに使用している電量滴定装置に対するデータインテグリティ指摘である。この電量滴定装置はダイナミックレコードである滴定曲線を生成していると査察官は判断したと思われる。ダイナミックレコードを持つ装置は電子記録を生データとして維持する必要がある。しかしこの電量滴定装置はERES指針が求める監査証跡機能を有していない。そのためこの装置は電子記録の真正性を保証できない、つまりデータインテグリティを保証できないとして指摘されたと考えられる。

厚労省が2005年に発出したERES指針に、電子記録の真正性を保証する要件として以下が記載されている。
➣ アクセス制限(権限設定)
➣ 監査証跡
➣ バックアップ
(ERES指針:医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について 2005年4月1日発出 厚労省局長通知 薬食発第0401022号)

 

またERES指針は、記録の保存期間をとおし真正性を維持するよう求めており、データインテグリティ対応には必須の要件である。例えば、連載第83 回 において以下の483指摘を紹介した。

国内バイオ原薬工場 2019/9/13 PPP社
カールフィッシャー滴定に使用されている機器は最大300データファイルを保存することができるが、保存容量が満杯になった以降は古いデータファイルを上書きしていく。しかし、古いデータファイルが上書きされて無くなってしまうのを防止するようデータファイルをバックアップしていない。

電子記録が上書きされる前に、その電子記録をシステム外へコピーして長期維持(アーカイブ)する必要がある。

 

 

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