医薬品開発における非臨床試験から一言【第55回】

2024/07/12 非臨床(GLP)

臨床薬物相互作用試験について。

 

臨床薬物相互作用試験①

非臨床試験では薬物相互作用(DDI)のメカニズムと安全性のリスクを中心に研究が進められました。非臨床での基本的な情報を基に、さらに臨床でのDDIリスクを評価することで、治療現場での安全な用法用量を定めるために臨床薬物相互作用(臨床DDI)試験が実施されています。ヒトでのDDIの可能性を評価する試験は、健康志願者等を対象に、第III相試験開始前に実施されます。また、臨床用量の被験薬、指標薬、阻害薬、誘導薬を使用します。

臨床試験から被験薬と指標薬との間にDDIが認められると、臨床現場では併用薬についてDDIの可能性を考えます。また、医療用配合剤や併用療法等、被験薬の併用投与が前提となると、該当する薬物による臨床DDI試験の実施も考えます。

臨床DDI試験の結果は、その後の臨床試験(第III相試験等)での併用薬を検討する際に利用されます。非臨床試験(in vitro試験等)からDDIが疑われると、臨床DDI試験で安全性が確認されるまでは、併用を禁止すべきです。第III相試験等でDDIを検討する場合、母集団薬物動態解析法(PPK)による情報は被験者の薬物動態を予測し、有効性及び安全性を検討する上で有用です。製造販売後に、新たなDDIが報告されると、臨床DDI試験の実施も検討します。

DDIの定量的評価は、被験薬又は併用薬の血中濃度推移から求めたAUC(Area Under the blood Concentration:血中濃度時間曲線下面積)で行います。併用薬物との組合せで、薬効や副作用もDDIの指標となります。臨床DDI試験に基づく相互作用の判定は、薬物動態パラメータの幾何平均比の90%信頼区間に基づきます。相互作用薬の併用時の値が、非併用時の0.80~1.25の範囲ならば、当該薬物間の薬物動態学的な相互作用は無いと判断します。

薬物動態パラメータに加えて、臨床試験で確認された安全性も踏まえて、薬物相互作用を判断すべきです。臨床DDI試験において、血中薬物濃度のCmax、tmax、トラフ濃度(反復投与での定常状態における最低値、当日の服薬直前の血中濃度)、クリアランス、分布容積、半減期等の薬物動態パラメータへの影響を評価します。臨床的に問題となるDDIの可能性があると、その情報提供と注意喚起を行います。

臨床DDI試験は、無作為化クロスオーバー試験、上乗せ試験等により実施します。例えば、被験薬を単剤投与で検討した後に、併用投与を行います。しかし、並行群間比較試験は、個体間変動の影響があるため、一般的に推奨されません。臨床DDI試験は非盲検で実施され、外部対照との比較は原則として行いません。しかし、バイアスを受けやすい薬力学的マーカーの評価が重要な場合は、慎重に比較することも可とします。

 

 

2ページ中 1ページ目

執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

62件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年2月26日 (水) ~ 2月28日 (金)

GMP Auditor育成プログラム第19期

2025年6月16日(月)10:30-16:30~2025年6月17日(火)10:30-16:30

門外漢のためのGMP超入門

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます