医薬品工場に求められているHSE要件と事例【第40回】
国際化に対応する医薬品会社に必要なHSEとは?
「国内法より厳しい欧米基準」
1、 製薬企業のあるべき姿
製薬企業の国際化多様化が進む中、国際化多様化対応の出来ているグローバル企業と国際化多様化が進んでいない多くの国内企業の夫々の医薬品工場や化学物質製造工場は、その事業所毎にその事業所内で働く人々や事業所周辺で居住している住民の方々の健康を守るため、リスク評価結果に基づくリスク低減対策を日々運用し、マネジメントせねばなりません。その法規制はリスクアセスメントの結果次第で、科学的根拠をもって許容限度値より厳しい基準値でなければ人々の健康被害を発生させることなく予防出来ません。欧米のHSE(健康安全環境)運用管理は各国国内法の基準値より厳しい規制値にて運用しています。なぜなら、化学物質や医薬品原料のリスクアセスメントは化学物質個々の取扱い工程毎に曝露の定性リスクアセスメント、定量リスクアセスメントを定常的に行うことによって、作業場所とその周辺地域への曝露リスク管理を物理的科学的にリスクの大きさを導き出すことは欧米では30年以上前から行われています。
又、その評価結果から健康への影響を医学的に検証し、OEL(Occupational exposure limit)の8時間TWA(Time Weighted Average:時間加重平均)で健康被害になるか否かの判断基準を定めています。一定の作業時間にオペレーターが原薬や化学物質をどれだけ吸い込むかを測定のためカセットフィルターに取り、化学的な定量分析を液クロマトグラフなどで、正確に数値でデーター化します。この数値化した定量評価結果を取扱い化学物質のOELと比較することでこの曝露量が健康被害リスクの大きさを数字的に捉えることが出来るのです。このリスクの大きさを優先順位付けして大きいリスク作業から順にリスク低減対策を実施してゆきます。よって健康被害の発生リスクを低減し、再評価の結果に従ってPPE(Personnel protective equipment) 個人用保護具、RPE(Respiratory Protective Equipment)やCPE(Collective Protection Equipment)防護設備のレベルと種類を決定し、作業が開始出来るのです。
2、 国内製薬企業の現状
しかし、多くの国内医薬品工場や一部の化学物質製造工場は国内法で求められて初めて法律のガイドラインをそのまま実施し、国内法だけは遵守せねばと罰則規定はどうなっているかと調べている始末です。根源は日本国内法での健康被害リスク対応としての規制値は低く欧米の基準値は非常に厳しく規制されており、国民の健康を守る意識の高さを認識せざるをえません。この規制値を厳しく出来るのは欧米の曝露管理技術レベルの高さがあると筆者は考えています。なせなら、欧米のHSEは安全衛生法ではなく、健康安全環境です。リスクアセスメントの歴史も古く、物理科学的な評価も根拠が明確です。健康への影響や被害のリスクの大きさも数字で表し、リスク低減対策も計画的に行う文化が出来ています。従って、根拠が明確なので、基準値や規制値が明確により厳しいものに必然性があって運用されてます。
一方日本国内の健康被害リスク運用を見ると後手に回っているとしか言いようがありません。化学物質の曝露が原因で健康被害が発生する事を立証しにくい旨の理由で地域社会からのクレームに対応するも現地のサンプリング調査だけでは厳しくする根拠とならないため、厳しくする事が出来ず、環境省は曖昧な暫定目標として公表している。
<事例>
以下の事件から一例として現状の国内法の厳しく出来ない又、しない理由が見て取れます。
発がん性物質が大阪市で環境省の暫定目標値50ng/Lの110倍の濃度5500ng/Lの調査結果が河川、地下水、用水路などから検出された。
化学物質名:有機フッ素化合物(PFOS,PFOA等発がん性物質CMR物質)
国外の基準:
WHO: 100ng/L
EU欧州(ドイツ):20ng/L
国内の暫定目標値:50ng/L
性質:水や油をはじき、熱に強い
使用用途:
① フライパンのコーティング
② 撥水スプレー
③ 泡消火器
特徴:自然界では分解されず、人体に長く残留する。「永遠の化学物質」と呼ばれる。
事件の概要:国内空調機器大手は1960年代から自動車部品の製造工程で使用していた。2012年に同社米国の工場は米国環境保護局から使用停止命令ががあり、同年使用を中止した。その後国内では活性炭で除去して使用を継続してきたが環境省の2020年度の調査では大阪市内の地点で国の暫定目標値50ng/Lの110倍の5500ng/Lが検出された。2年後近くの用水路で6500ng/Lが検出された。 大阪府は地下水を飲まないように呼びかけた。しかし、近くで農作物を育てている。公園で遊ぶ子供たちへの影響も心配。
本件のみならず、国内法は残念ながら、欧米に対して遅れを取ってしまっていることを企業や一般市民は問題視せねばなりませんが黙っていて健康被害を身近なところで発生させてしまっては手遅れとなります。
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