いまさら人には聞けない!微生物のお話【第38回】
10. 無菌試験
無菌試験は、日本薬局方やUSPで規定されている公的な試験になります。試験方法の詳細は、それら公定書やその解説書に掲載されていますので、それらを参照してください。
簡単に言うと、検体を指定された2種類の培地(液状チオグリコール酸培地、SCD培地)で14日間培養し、微生物の増殖が認められなかったら合格と判定するものです。しかし滅菌の項で述べたように、この無菌試験には次のような問題があります。
① 1/1,000,000の生残確率を確認するために、100万個の製品の無菌試験を行うことは不可能である。現実的には同一ロットの製品からある数のサンプルを抜き取りにより試験に供すことになるが、汚染レベルが極めて低いため、(仮に陽性の試料があったとしても)検出の確率は著しく低い。
② 無菌試験は破壊試験であるため、製品を無菌試験に供してしまったら、その製品は商品としての価値を失い、販売することはできなくなる。
③ 無菌試験は日本薬局方などの公定書に記載されている条件で培養を行い、菌の生育がなければ「陰性」、生育が認められれば「陽性」という判断するが、微生物の中には、たとえば結核菌のような公定書記載の培地では生育しないものや、生育するにしても無菌試験法で規定されている日数では肉眼的に増殖を確認できないものが多数存在する。
④ 試験実施者が手作業で試験を行うため、どうしても避けられないエラーが生じる。(製品は無菌であったにもかかわらず、試験中に培地が汚染されてしまい、結果的に無菌試験は陽性となってしまう。)
⑤ 大型の医療機器では、無菌試験を行うこと自体、非常に難しい。
医療機器は製品ごとに形状、構造、大きさがまちまちです。その包装も様々なタイプが存在します。そのため、医療機器の無菌試験を自動化することは極めて困難で、多くの場合は、試験担当者が手作業で試験を行います。無菌試験用の容器についても、注射針のような小さなデバイスであれば普通の試験管で試験を行うことができますが、内視鏡手術用のデバイスや人工骨頭などはかなり大型ですので、市販の容器を使うのは難しいと思われます。しかも製品の単価が非常に高価ですので、試験費用の点からも無菌試験の実施は現実的ではありません。
そのような理由より、無菌試験は対象物の無菌性を直接評価するための唯一の方法であるにも関わらず、この試験をもって製品の無菌性を保証することは事実上不可能です。敢えて乱暴な言い方をすれば、滅菌保証に関しては、無菌試験は意味のない試験方法ということができます。
ただし放射線滅菌における検定線量でのバイオバーデンの放射線抵抗性の確認には、この無菌試験のテクニックが使われます。
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