いまさら人には聞けない!微生物のお話【第25回】

15.3 バイオロジカルインジケータとProcess Challenge Deviceについて

湿熱滅菌における滅菌条件設定では、バイオロジカルインジケータを使うのが一般的です。バイオロジカルインジケータ(BI)というのは、「ある特定の滅菌プロセスに対して,あらかじめ定めた抵抗性を示す生育可能な微生物を含む試験システム」(ISO17665-1)です。言葉にするとよく意味が分からないのですが、要するに当該滅菌工程に対して高い抵抗性を持つ微生物(通常は芽胞)を一定数ろ紙などの担体に塗布、乾燥させた試験片のことです。BIには指標菌の芽胞をろ紙片に塗布乾燥させたもの、そのろ紙片とガラスアンプルに入れた培地を組み合わせて培養操作を容易にしたもの、さらに製品に直接塗布するための芽胞懸濁液などの種類があります。これらは対象製品の形状、BI設置場所、自社の試験設備、担当者の力量などに応じてどのタイプを使用するか決定します。試験設備が十分でない場合や、微生物試験担当者の経験が少ない場合は、「セルフコンテインド タイプ(self-contained type)」または「クラッシャブル タイプ(Crushable type)」と呼ばれるろ紙片と培地を組み合わせたBIを使うことをお勧めします。このタイプは滅菌後の操作が簡単で、初心者でも取り扱いが容易です。培養も専用の小型の機器を使うことで、BI培養用のインキュベータも必要ありません。またガラスアンプル中培地に色素(pH指示薬)が入っており、指標菌が生残した場合は、指標菌の生育による培地pHの低下で、培地の色が変化するように設計されています。

図21 バイオロジカルインジケータの例

湿熱滅菌では、一般的にGeobacillus stearothemophilus ATCC 7953の芽胞が使われます。この細菌の芽胞は、湿熱に対して非常に高い耐熱性を有し、しかも病原性はないため、湿熱滅菌の指標菌として一般的に使われます。この細菌はいわゆる好熱菌で、培養は55~60℃の条件で行います。

滅菌工程確立やバリデーションを行う際は、これらのBIを製品と同じ材質のパッケージで包装するなどし、実際の製品に近い状態にして、それを使って作業を行います。その製品に似せた形状のBIをProcess Challenge Device(PCD)と呼びます。(図22)

滅菌工程の確立作業やそれに続くバリデーションでは、このPCDを製品中に入れ、時間を変えながら、指標菌の死滅状態を判定します。たとえば、一つのパレットの上下中央などを含む15か所にPCDを入れ、その3パレットを1バッチとして滅菌を行う場合、図23のような配置になります。

この際、バリデーションやそれに続く日常滅菌で使用すべきBIの数は、ISO11135(エチレンオキサイド滅菌)では最小推奨数として紹介されていますが、ISO17665-1(湿熱滅菌)では規定がありません。一般的にはISO11135を参考にしながら、バリデーションプロトコールで規定することになります。 また通常はこのPCD/BIを設置した場所に、温度センサーも併せて設置し、温度をモニターします。

温度センサーは、コードがつながった温度素子をバリデーションポートと呼ばれる滅菌器についている側孔から挿入する、あるいはデータロガーと呼ばれるセンサーを内蔵した記録装置を用います。
コードがつながった記録計は、滅菌工程中リアルタイムで温度をモニターできますが、データロガータイプは、滅菌工程終了後にロガーを回収し、それから読み取ることになります。

このようにPCDと温度センサーを設置したパレットを滅菌器内に搬入し、工程確立のためのテストランを行います。湿熱滅菌の場合、指標菌自体の121℃におけるD値はせいぜい数分ですので、通常は5~10分間隔程度で振っていきます。注)

注)指標菌自体は、121℃の湿熱下で数分ごとに1/10になるような速度で死滅していきますが、PCDにはパッケージというバリアーがあるため、一般的に死滅にはそれより時間がかかります。一方で蒸気を導入するプロセスや温度を下げていくプロセス中でも指標菌の死滅は起こります。従いましてPCDとしてのD値は、実測することが必要です。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます