医薬品の技術移転のポイント【第15回】

3)導入前に品質の問題点の把握と改善後に導入
 海外からの導入品;既にグローバルで販売している製品を日本で新規販売
(1)申請データの確認:3ロットの安定性データ
 設計部門は海外と同じ製剤/包装での販売を希望していました。
 溶出試験の安定性試験で1/12個や2/12個の規格外のロットが出ていました。日本薬局方の判定は2/12までは適合です。研究開発部門は「日本薬局方に適合しているから問題ない」との考えでした。そこで統計・確率の観点からそれが今後安定性モニタリングでOOS⇒規格外⇒回収(全ロット)⇒欠品のリスクがあることを具体的に数字で示すことで、このままでは問題であることの理解を得ました。

(2)溶出試験時の2/12と1/12の判定合格率とその意味

  • 12錠試験して2錠規格外がでているロットの場合、不良率1/6(p)、5/6(q;1-p)
    12C0p0q12=1×1×(5/6)12=0.112
    12C1p1q11=12×(1/6)1×(5/6)11=0.264
    12C2p2q10=66×(1/6)2×(5/6)10=0.264

           合格する確率=0.64 64%(不適合は36%)

  • 1/12Tの場合;不良率1/12(p)、11/12(q;1-p)
    12C0p0q12=1×1×(11/12)12=0.352
    12C1p1q11=12×(1/12)1×(11/12)11=0.384
    12C2p2q10=66×(1/12)2×(11/12)10=0.192

           合格する確率=0.93 93%(不適合は7%)

OOSが14ロットに1回(7%の不適合率)発生します。明確なラボエラーは見つかりません。また製造工程にも問題は見つかりません。このバラツキで基準に入らない錠剤/カプセルが存在しているロットなのです。そこで頑張ってリテストを行いますが、リテストはn=4~6とすると、
 n=4で全て合格する確率75%(25%不適)
 n=6で全て合格する確率65%(35%不適)
そうすると、n=4で25%、n=6で35%の確率でロットが不適合になります。何回もリテストすることはできませんので、製品回収になります。当局に説明に行くと必ず尋ねられます。
「他のロットは問題ありませんか?」
どう答えられるでしょうか? 原薬や原料、資材は同じです。製造方法も同じです。保存サンプルを試験して問題なかったとしても、「それは問題ないけど、市場にあるのは問題では? たまたま合格したのでは?」と追及されると問題ありませんとの根拠データは示せず、論理的な説明もできません。使用期限の残っている全ロット回収になります。溶出試験はバラツキの問題なので、物流在庫品についても問題ないと説明できません。そうすると回収品との交換品がなく、欠品になります。この欠品になることがとても怖いことです。患者様に別の会社のお薬と変更をお願いすることになります。溶出試験に適合していても微妙に違います。病状がせっかく安定している患者さんに不利益が生じる可能性があります。また営業サイドでは、せっかく納入できていたのが納入できなくなり、別の会社の製品が納入されます。そうなると再度納入してもらうにはハードルが高くなります。営業サイドから「回収は百歩譲るけど、欠品だけは避けて欲しい」と強く言われた経験があります。

(3)どこまで改善すればよいか。
 今多くの製品が安定性モニタリングの結果から回収になっています。品質再評価の溶出試験設定時に、統計・確率的な視点が弱かったのではないと推測しています。

  • 1/15Tの場合;不良率1/15(p)、14/15(q;1-p)
    12C0p0q12=1×1×(14/15)12=0.437
    12C1p1q11=12×(1/15)1×(14/15)11=0.374
    12C2p2q10=12×(1/15)1×(14/15)11=0.374

           合格する確率=0.96 96%

1/15の場合は4%不適合になる(1/25ロット不適)
 OOSになるとn=4で全て合格 0.964=0.849
 OOSになるとn=6で全て合格 0.966=0.783

  • 1/18Tの場合;不良率1/18(p)、17/18(q;1-p)
    12C0p0q12=1×1×(17/18)12=0.504
    12C1p1q111=12×(1/18)1×(17/18)11=0.356
    12C2p2q101=66×(1/18)2×(17/18)10=0.115

           合格する確率=0.98 98%

1/18の場合は2%不適合になる(1/50ロット不適)
 OOSになるとn=4で全て合格 0.984=0.922
 OOSになるとn=6で全て合格 0.986=0.886

1/18くらいまでに減らせば製品回収のリスクはほぼないかと思います。
つまり、QCとQAは結果を規格に入っているかどうかだけでなく、そのデータを統計・確率的に見て、どのような意味を持っているかを推測して判断する能力が求められています。
  
(4)対応策
 よって、このままだと、将来製品回収リスクがあることを研究開発の製剤&分析の人に理解してもらいました。  
 ⇒処方変更は時間がかかる。
 ⇒アルミピロー&乾燥剤の包装では溶出試験で経年で低下を来さないことがわかった。
そこでアルミピロー&乾燥剤の包装で安定性試験を取得して申請し、承認されました。
販売後、安定性モニタリングでの溶出試験で問題もなく、当然製品回収も起きていません。
 品質再評価時、約8割の製品にこのようなリスク(ロット内バラツキ&経年での低下)があることがわかり、対策を講じました。その結果他社で起きているような溶出試験での製品回収はありませんでした。また他社からの販売移管品で同じような問題が見つかり改善を行いました。経営層は理解していないと思いますが。
 

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