GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第59回】

リスクマネジメント

1.想定外
 最高裁にて、原発事故で国の責任を認めない判決が言い渡された。「現実の地震・津波は想定よりはるかに大規模で、防潮堤を設置させても事故は防げなかった」と判断された。ここで、原発事故の最高裁の判決を議論するわけではない。ここで議論すべきは、品質への影響度とその発生頻度である。欠陥モード影響解析(FMEA)ではRPN(Risk Priority Number)を利用してリスク分析を行う。S(重要度)×O(発生度)×D(検出度)により得られた値から低減策などを実施するべきか評価することになる。原発事故を引き起こした地震と津波は想定以上のもので、100年に1度の発生もしないとの判断であり、低減策の必要はないのかを考えなければならない。防潮堤の高さだけの問題なのか、他に手段はなかったかを考えるべきではないだろうか。知床観光船事故も同様だが、今まで事故がないからと放置されていた点がないか考えるべきである。
 低減策を考える時、多くが発生を低くする方法や検出を上げることにいく。発生率を下げるために教育訓練により、作業の間違いが起こらないようすることやバリデーションを行うことで、発生しないことを確認する。検出率を上げるためにダブルチェックを取り入れや金属異物の発見のために金属探知機を使用するなど、新たな検出機器を使用したり、その感度等の能力を上げたりする。「教育訓練の徹底」や「ダブルチェックの実施」は、再発防止策として、よく耳にする。私が県庁勤務の時、回収や違反における報告書を授受する際、再発防止策に、「教育訓練の徹底」や「ダブルチェックの実施」が記載されており、本当にCAPAの有効性として十分か問いただすことがあった。「教育訓練の徹底」や「ダブルチェックの実施」がその場しのぎになっていることが多い。教育訓練を行ったとしても、CAPAの有効性も教育訓練の実効性評価もしていないケースが散見される。ダブルチェックも手順に盛り込みながら、チェックが作業者の負担になり、なおざりになることも多い。低減策として、十分かを考えるべきである。
 低減策として、重要度や影響度を下げることは難しいかもしれない。原発事故の場合、津波について想定外に大きなものでも、放射線汚染があんなに広がらない対策はできなかったのだろうか。知床の観光船事故では、観光船1隻で出港せず、万が一事故発生時の相互救助や連絡の確保につながるように現在、観光船運営会社が協力しているそうだ。事故が起きた時に危害そのものを低下させるのが難しい場合でもその拡大を抑える手段を考えるべきであろう。GMPでは、製造管理に問題がなく、試験検査が合格になった上で、更に、出荷判定を行うのは、出荷の段階で、再度、何か疑義が生じていないかを確認するためである。更に、GMPの出荷判定とGQPの出荷判定の二重の防波堤を設けていることを理解すべきである。製薬業界で頻発した違反事例は、この出荷管理が十分機能していなかったことも一因である。
 原発事故を起こした一つの要因として、原発の安全神話もあったかと思う。それなりの対策はしていただろうが、それで十分であり、日本で炉心溶融に至るような事故が起きないと思い込んだため、電力会社も国もそれ以上の対策ができなかったのであろう。ジェネリック医薬品の供給不足問題の中、製薬業界での違反事例も、想定外なものなのか検証すべきであろう。再度、過去のリスク分析した事象について、想定内であるかを再確認すべきである。
 

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