ラボにおけるERESとCSV【第91回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(61)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■UUU社 2019/10/15  483
施設:製剤工場

■Observation 2

自動化装置、機械装置、電子機器に対する検査やチェックが手順に従ってなされておらず、適切に動作していることを保証できていない。電子記録が使用されているが、それらが信用でき信頼性があり紙の記録と同等であることを保証するための要件が満たされていない。
特に、注射剤製造に使用されている重要な装置の評価と管理に欠陥がある。装置の操作画面は現時点のアラームやアラーム履歴を詳細に表示している。しかし、多くの装置に以下の不備があった。
 • データの履歴表示や傾向表示
 • データバックアップ
 • ユーザー固有のログインIDとパスワード

★解説
製造装置における指摘である。装置の操作画面は現時点のアラームやアラーム履歴を詳細に表示しているとのことであるので、特に問題はないような記載である。しかし、十数台の装置において以下の不備を指摘している。
 • データの履歴表示や傾向表示
 • データバックアップ
 • ユーザー固有のログインIDとパスワード

指摘を受けた会社の方の話しによると、指摘のポイントは各アラームの処置基準が定められていなかったことだったとのことである。また、US向け製品を作っていないラインでの指摘であったとのことである。US向け製品を作っていないラインはFDA査察の対象外と考えられるが、査察官の調査要求を拒絶すると査察妨害と判断され警告書が発せられる。従って、査察官の求めに応じてそのラインにおける装置の説明をしたのであろう。

製造装置におけるFDA査察においてはアラームに関する査察指摘が大変多い。たとえば以下のような指摘がよく見受けられる。
 • アラーム履歴を電子的に維持していない
 • アラームを印字して維持していない
 • 製造装置のアラーム履歴をQAがレビューしていない
 • 製造装置のアラームをQAが調査していない
 • 製造装置のアラーム発報に対し、生産への影響を評価していない
つまり、アラームの履歴が残らないので、逸脱が発生していなかったことを
 • QAが後日保証できない
 • 査察官が査察時に確認できない
として指摘するのである。

そのような指摘リスクを回避するには以下を説明できるとよい。
 • 発生したアラームは逸脱に相当しないものであった
 • 発生したアラームは生産に影響しないものであった
これらを運転員同士がダブルチェックし記録していれば
 • アラーム履歴を電子的に維持していなくても指摘を受けないのではないか
 • QAがアラームの電子履歴を確認する必要がないのではないか
と考えられる。たとえば、逸脱が発生しなかったことを証明できるように以下の様にしておくと良いのではないだろうか。
 • システムが発する各メッセージの深刻度を規定
 • 製造が正常に終了したメッセージ ~ 逸脱のアラーム
 • 各メッセージに対する処理を規定
 • 製造記録に記載しない ~ 記載する ~ 逸脱処理を起動 など
 • 逸脱のアラームがなかったことを、シフトごとに製造記録に記載
 • 製造記録をシフト毎に照査

★本Observation 2について
本Observation 2はFDAの「Inspection Classification Database」においてcGMP §211.68不適合と記載されている。英文のままではあるが、cGMP §211.68を以下に転記しておく。

§211.68  Automatic, mechanical, and electronic equipment.
     (a)   Automatic, mechanical, or electronic equipment or other types of equipment,
       including computers, or related systems that will perform a function satisfactorily,
       maybe used in the manufacture, processing, packing, and holding of a drug product.
       If such equipment is so used, it shall be routinely calibrated, inspected,
       or checked according to a written program designed to assure proper performance.
       Written records of those calibration checks and inspections shall be maintained.

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