医薬品開発における非臨床試験から一言【第31回】

今回は、「ラット肝不全モデル」に焦点を当てて解説をする。
ラット肝不全モデルの作成
創薬研究では薬効薬理、あるいは安全性の確認のために、動物実験が行われています。正常動物を用いた動物試験に加えて、様々な病態モデル動物を用いた試験も有効です。また、モデル実験は、小動物(ラット、マウス)あるいは大動物(イヌ、サル、ミニブタ)、さらにウサギなど多くの動物種での研究が行われています。今回は、「ラット肝不全モデル」に焦点を当てて解説します。
この動物実験の解説を始める前に、【第26回】動物実験委員会の考え方を復習しましょう。
創薬においては、安全性と有効性を非臨床において確認する過程から始まります。そこでは、in vitroとin vivoでのスクリーニング試験を行います。実験動物の扱いは、法的に「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」で具体的に示されています。動物実験従事者は、動物実験の科学的かつ倫理的基盤となる3Rの原則、Reduction(使用動物数の削減)、Replacement(代替試験法の積極的な採用)、Refinement(実験手技の洗練による動物が被る苦痛やストレスの軽減)を念頭におき、動物実験を適正に実施します。繰り返しになりますが、モデル動物を用いた実験においては、3Rの原則をしっかりと守りましょう。
ラット肝不全モデルは、大別すると、急性肝不全モデルと慢性肝不全モデルになり、一方で外科侵襲モデルと、薬物投与モデルになります。外科侵襲による急性肝不全モデルの原点は非常に古く、<Higgins GM, Anderson RM: Experimental pathology of the liver. I. Restoration of the liver of the white rat following partial surgical removal. Arch Pathol 12: 186-202, 1931>になり、90年ほど研究の歴史をさかのぼります。
原著では、ラットの肝小葉を4分割して、内側葉(median lobe)、右外側葉(right lateral lobe)、左外側葉(left lateral lob)、尾状葉(caudate lobe)と名付けています。そして、内側葉と左外側葉を一括して結紮削除し、65~75%の肝切除モデルを作成したと記載されています。この実験モデルではラットの75%が術後生存し、その後の実験に使用されました。
我々が取り組んだ頃の理解では、内側葉は2様に分割して左内側葉(left median lobe)と右内側葉(right median lobe)となっていました。つまり、5つの肝小葉の内の3葉を切除することで、「70%肝切除モデル」としていました。実際の手術では、1夜絶食のラットをエーテル麻酔下に開腹し、3葉を手術用縫合糸で結紮した後に切除します。腹腔内を生理食塩液で洗浄した後に閉腹し、麻酔が覚めれば術後管理に移します。
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