ラボにおけるERESとCSV【第90回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(60)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見 (Observation) の概要を紹介する。

■TTT社 2019/10/11 483
施設:製剤工場

■Observation 1
B)QCラボにおけるOOS結果を、根本原因を明確にすることなく棄却している。例えば;
   GCのテストにおいて、OOSとなったテスト結果を機器のエラーであるとの仮定に基づき棄却し、
   テスト溶液を1日後に再測定して得られた合格結果を受け入れていた。
   しかし、バイアル中の溶剤が蒸発し希釈溶媒が減少したために合格結果となったことを検討して
   いなかった。さらに、フラスコに残っていたサンプル調製液により、OOS原因の仮定を調査
 (つぶし込み)していなかった。不合格となったテスト結果を再測定により再確認するという
   逸脱調査手順は不適切である。
   OOS:Out Of Specification 規格外
 

★解説
正当な理由なく初回の分析結果を棄却して、後で実施した分析結果を正式記録として採用していると指摘を受ける。この様な場合、再測定による良いとこ取りをしているとみなされ指摘される。483に記載された指摘への回答によっては、警告書(ウォーニングレター)という重い指摘となり、警告書に以下の様に記載されることがある
  •  貴社は従前よりこのような良いとこ取りの再測定を行ってきたということであるが
  •  既出荷品の品質判定に問題が無かったことを
  •  参考品を分析し直すなどして確認しておらず
  •  既出荷品の品質を保証出来ていない。
このような指摘を受けないためには、OOSとなった場合、FDAもしくはMHRA(英国医薬品庁)のOOS(Out of specification 規格外)処理のガイダンスに従うのがよい。

これらのガイダンスには以下の様に記載されている。
  •  OOSテスト結果を調査し、原因を以下のどちらかに切り分ける
    ✓ 測定における異常
    ✓ 製造における異常
  •  OOSテスト結果の調査は以下の様に行う
    ✓ 調査内容はすべて記録する
    ✓ OOSとなったテスト結果も調査記録に含める
    ✓ ダイナミックデータの場合、OOSとなった電子記録
​​​​​​​      および原因調査テストの電子記録を削除してはいけない
    ✓ 調査内容は試験責任者等がレビューし最終判断を行う
    ✓ QAレビューを受ける
 

FDAは「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」(2006年10月)においてOOS処理のガイダンスを示している。このガイダンスにはその根拠法令(連邦食品・医薬品・化粧品法、cGMP)も記載されている。このガイダンスを参照し、法令違反とならないようなOOS処理手順とする必要がある。このガイダンスの要旨はファームテクジャパン2018年2月号における「FDA 483指摘140件に基づく データインテグリティ実務対応の留意点 その3」を参照されたい。

2018年3月にはMHRA(英国医薬品庁)よりOOS/OOT調査のガイダンスが公開された。
Out of Specification & Out of Trend Investigations
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/
このガイダンスはFDAのOOS調査ガイダンスを補完するものと位置づけられており、フローチャートによる具体的なステップが示されている。
 

★本Observation 1について
本Observation 1はFDAの「Inspection Classification Database」においてcGMP §211.192不適合と記載されている。
Inspection Classification Database
https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/inspection-classification-database

§211.192  Production record review.
All drug product production and control records, including those for packaging and labeling, shall be reviewed and approved by the quality control unit to determine compliance with all established, approved written procedures before a batch is released or distributed. Any unexplained discrepancy (including a percentage of theoretical yield exceeding the maximum or minimum percentages established in master production and control records) or the failure of a batch or any of its components to meet any of its specifications shall be thoroughly investigated, whether or not the batch has already been distributed. The investigation shall extend to other batches of the same drug product and other drug products that may have been associated with the specific failure or discrepancy. A written record of the investigation shall be made and shall include the conclusions and follow up.

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