エッセイ:エイジング話【第38回】

夏彦さんに聞く

 人生の岐路に立ったとき、誰かに意見を聞きたくなります。迷ったとき決心するに勇気が要ります。私も就職先を決める時期、誰かに頼りたくなりました。
 代々家に伝わる稼業はなく、私には職業選択の余地がありました。父は稼業を継がなかったことから決めるに強い意志があったと言います。いったん稼業を継ぎ、「二つの道も考えた」と晩年になって語ってくれました。
 私はモノをつくるのが好きだったことから、広い意味で製造業へ進みたく理化学系の学部へ進み、潰しがきく製造業なら「売る方も良いかなー」と考え、「販売や中間的な職種もあるかなー」と決心を先延ばしにしました。
 丁度その頃に、「職業には貴賤がある」と言われる人があり、かなりのところ驚きました。なぜなら、「職業に貴賤はない」とする風潮が常識だったからです。

雑誌「室内」と山本夏彦氏著作


 「職業には貴賤があると、私は思っている。皆さんも思っている。それなのに、無いとおっしゃる。」- 茶の間の正義 山本夏彦著 中公文庫©1979 より引用(本文のまま) -
 この文を書かれたのは、家具雑誌の編集発行人を名乗られた山本夏彦(やまもとなつひこ)氏です。小説家阿部譲二(あべじょうじ)氏は、府中の塀の中で山本夏彦氏が編集された「木工界」という雑誌を愛読されており、塀の外へ出たら弟子になろうと決心したと、ベストセラーとなった著書「堀の中の懲りない面々」-文藝春秋1986年出版-で語っておられました。
 府中刑務所は家具の製作でも知られますから、多分ですが家具雑誌「木工界」の記事を読まれたおり、その編集人を務められる山本夏彦氏のコラムにも触れられ、繰り返し読まれたのでしょう。
 私は塀の中でなく、知り合いの大工さんの書棚で「木工界」を見つけ繰り返し読んでおり、一時は家具職人になろうと思ったこともありました。あれから45年が経過しましたが、欅(けやき)1枚板を天板にした机、栗(くり)1枚板を座面にした長椅子つくりが実現し、事務所の玄関で使い始め10年余りになり風合いが増しました。

雑誌「室内」と山本夏彦氏著作

 

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