省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第10回】

本文では変更及び逸脱の管理、コラムでは「承認」と「確認」の違いを解説します。

監査では特にこの二つのシステムが重要な確認事項であることからよく並べられますが、これらは性質が全く異なります。

変更の管理(第14条)
 本条には相当程度文言が追加されています。改正前は第1項第1号に品質への影響評価、品質部門の承認及び記録、第2号は変更実施の際の手続きとなっていました。改正前の第1項は改正後の第1項になり、手続きの詳細が追加されています。改正前にはなかった第2項は変更実施後の対応です。PQSの変更マネジメントには変更実施後の評価があり、この重要性から厚労科研班が追加しました。改正省令案検討に際して、PIC/SやEU-GMPのように冒頭にPQSを置く二層構造とするかPQSの要素を省令内に溶け込ませるかを厚労科研班で議論し、後者を選択しました。従来の変更の管理(change control)もchange managementも日本語では「変更の管理」となることから、混乱を避けるために従来の変更の管理に変更マネジメントの概念を追加して新しい概念の変更の管理へと筆者から提案し、現在に至ります。大きな違いは、従来は品質への影響評価のみだったところ、改正後は承認事項への影響評価を加えています。省令改正のきっかけの一つが2015年に発覚した不正製造問題で、変更管理で承認事項への影響を評価する体制を整備することは、今回の目玉の一つといえます。承認事項との相違の発生は、大きくは開発時と変更時であり、医薬品開発段階で一貫性のある製剤設計であれば、あとは変更管理で一貫性を確保することによって必然、承認事項との相違が解消される理屈にはなります。例えば、図のように縦軸に便宜上、「概念的に」品質のレベルをQ、横軸に時間tをとった時に、開発から技術移転を経て生産に至るまでの一貫性の確保とは、管理戦略確立(CS)後、承認時点(A)の前後で、一定のレベルの品質を確保することになります。A以降の商業生産段階で、GMPは言い表せばより良い品質にするというより、「一定の」品質を求めています。しかし、より良い品質に改善はでき、その場合、階段状に上がる形をとります。この一段上がるところ(C)が変更の管理です。GMPが改善の妨げになるという意見をかつて耳にしましたが、それはGMPの基本思想が理解されていないことを示しています。
 課長通知には責任者が複数登場します。一つは、第1項の「あらかじめ指定した者」で、課長通知には「当該の変更の管理の責任者」となっていて、「変更を行おうとする案件を熟知している者」が要件です。もう一つは、第1項第3号の品質保証に係る業務を担当する組織で、課長通知では「当該変更の承認の責任者」です。いずれも第6条第4項の規定による文書に定めることとなっていて、製造・品質関連業務に従事する職員の責務及び管理体制を定める文書への記載が求められます。この文書は、課長通知では職責・権限及び協働体制の組織図等としています。従前の通知(薬食監麻発0830第1号:以下、施行通知)では、前者の責任者のみ定義され、承認は単に品質部門となっていたことから、前者の責任者をQA所属の者から選定している例がほとんどではないかと認識します。今回は課長通知でそれぞれの責任者が定義されたことから、それぞれが規制に沿っているかを確認する必要があります。文言上、従前の施行通知では、変更の管理に関する業務の内容を熟知した者となっていたところ、今回の課長通知では変更を行おうとする、例えば製品の規格や工程を熟知している者なので、熟知する業務の性質が少し変わってきていることに留意します。この者は所属に対する要件がないので、第1項の業務はQCの職員であったり、製造の職員であったりしても、上記の要件を満たせばむしろそれは自然の流れであり、更には熟知する業務の範囲の違いで、理論上複数設定しうることになります。
 第1項第4号は変更を実施する際に対応しておくべき教育訓練と文書改訂ですが、課長通知の文言と現実に見る運用は若干異なっていて、QAが教育訓練や文書改訂の完了を確認した後に承認を与える例がほとんどではないかと思います(変更実施前に教育訓練が完了していなければ第19条第1号、場合によっては第6条第3項、同様に文書改訂では第8条第2号等及び第10条等にも関わるため)。この後のコラムで述べる出荷判定の体制にも関わり、重要な監査指導ポイントです。
 品質はもとより、承認事項に影響が及ぶ場合、製造販売業者(製販)へ連絡します。製販は申請者であり薬事手続きの判断はできるわけですが、監査の重要な点として、製造所側での製販連絡案件に対する判断能力があります。変更起案時に誰がそれを判断し、影響評価するか、その者は承認事項の定義や薬事対応手順を理解しているか、そのための教育訓練体制も確認します。更に、薬事対応が必要となった際に、対応に応じた日程管理の体制が製造所に整備されているか確認します。
 更に基本的なことで、そもそも変更起案漏れがない体制か確認する必要があります。過去の不正製造問題での指導例では、例えば製造部門で行われた変更が起案されなかったために結果として承認事項との相違が生じたものがあります。監査時に起案されていないものに対して、その事実をつかむのは難しいことです。製造現場の作業手順/記録、作業者への聴取や設備の配置・動線等から、現場の状況が承認事項と一致しているか、次にSOPと一致しているかというところから変更管理の確かさを推察していくことになるでしょう。その他、提案改善活動を推奨している場合、その改善が変更管理手順にのっているか、GMP組織外となる技術部門が改善のための試作検討をする体制であれば、それらがどの段階で変更管理にのってくるのか、どのように記録され、どの段階でGMP文書と合流するのか、それぞれの体制に落とし穴はないか確認していきます。

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