医薬品品質保証こぼれ話【第24回】

2020/11/13 品質システム

原点に立ち返る

日本学術会議のメンバー6名の任命が見送られ、大きな波紋を呼んでいます。この問題に関連して、10月14日、政府は本学術会議(以下、「本会議」)のあり方を議論するための作業部会を設置しました。今回の任命見送りに対し、本会議の関係者や野党から、日本の科学技術の発展を著しく阻害するものである、といった論調の批判が出るなど、それぞれの立場・考え方から賛否が渦巻いていますが、“原点に立ち返って”本会議の設置の目的や意義を議論し、この会議をより有意義なものにすることは、一国民の目から見ても良いことのように思われます。また、政府が本会議を重要と位置付け、その成果に期待し多額の国費を投じ、また、メンバーの任命を総理大臣が行うことを法律で規定していることを考えると、めくら判を押すように無条件で任命することは、むしろ不自然に感じられます。その一方、識者の一部には、本会議が推薦したメンバーをそのまま任命するのが当然であるかのような発言も見られ、そういった慣習が染みついていることに驚きさえ覚えます。ちなみに、安倍政権時代、失言や不祥事を引き起こした大臣の任命責任を野党が首相に問い質すということが度々あり、中には退陣に追い込まれる大臣もありましたが、それほど、総理大臣による任命は重大で責任を伴うものであると理解します。その野党の党首が今回の件では、菅首相が熟慮の上、理由はともかくとして、6名のメンバーの任命を見送ったことそれ自体に異論を唱えていることには少し違和感があります。

今回、菅首相は、本学術会議の設置目的などを改めて確認し、今後のあり方を議論することを求め作業部会を設置しましたが、“原点に立ち返えって”物事を考えることは、これに限らず、あらゆる事柄について大切です。山道に迷い込んだら“出発点に戻る”といったことに象徴されるように、スタート地点に戻って物事を冷静に再考することは、企業活動はもとより個人レベルの問題に至るまで、様々な場面の問題解決に有効と考えられます。この“原点に立ち返る”ということと類似する概念として、“原理原則を重んじる”や、“基本を大切にする”、また“基礎が重要である”といったことが挙げられ、さらに、モノ造りの世界では、“現場を重視する”といったことも、これと共通する概念、価値観を現していると言えるでしょう。困難な問題に遭遇した場合や重要な課題の進め方に疑問を感じた場合などには、このような考え方に立って事を進める習慣をつけると、判断を誤らず物事を成功裏に進めることができるのではないでしょうか?

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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