Quality Culture【第5回】

2020/05/29 品質システム

前の会社で、逸脱/OOSを減らす取り組みを行いました。生産本部が生産として取り組みたいとのことです。当時本社QAは信頼性保証本部に所属していました。QAとしても逸脱/OOSを減らす取り組みは嬉しいかぎりです。ところが、生産本部は数値目標を掲げて行うとのことでした。数値目標を設定することにより報告が減る可能性があるので、数値目標を設定することに反対しました。ところが生産の責任者いわく、「うちの会社の生産は逸脱/OOSを報告しないような低いレベルではないので報告はされるはず」と強調されました。どうしてもQAより、生産の方が強いので、押し切られてしまいました。そして、生産本部が行う取り組みで主体はこちらではなかったですし。
 実は工場勤務の時に、逸脱が報告されていないケースを知り、その改善(逸脱起きたら必ず報告する)を包装工程の責任者にお願いしたことがありました。
 その包装ラインはカートン(外箱)に個装箱を詰めて封をするとそのまま自動で倉庫まで流れて行っていました。あるとき、倉庫からの報告に、倉庫に来たカートンを包装ラインに戻している報告書がありました。戻すということは見直しをしたいからだろうと考えました。見直しは逸脱なので逸脱が出ているはずだと思い、逸脱を調べました。ところが出ているのは2割程度です。ほとんど出ていません。戻して開封して見直ししたことは通常の作業と異なりますので、逸脱報告の対象です。つまり、逸脱報告せずに自分たちで見直しをしていたのです。
 包装工程の課長数人に、「倉庫から戻す時は逸脱報告をだしてください」と話し合ってお願いしました。逸脱報告が少ないのが良いとは言えません。FDAも日本の製造所に対してWarning Letterで「過去2年間のデータをレビューした結果、2つのマイナーな製造での逸脱があるだけで、OOSはなかった」と報告されていないことを問題にしました。つまり生産規模に応じてある程度の逸脱/OOSが出てあたり前なのに、出ていないということは報告されていない、あるいは隠していると思われるのです。
 生産本部は逸脱/OOSに数値目標を掲げて実践し、啓発ポスターも作成しました。ポスターなので威勢がいい方が良いので、「逸脱、OOS ゼロ!」の文言を書いて、4か所の製造所にポスターを多く貼りました。
 その後、その4か所の製造所の1か所にFDAの査察が入りました。FDA査察官はそのポスターが気になって、「これはなんだ?」と尋ねました。逸脱、ゼロは日本語ですが、OOSはどうもOut of Specificationだと思い、何か品質に関係しているポスターだと思ったのでしょう。実施している方は良いことをしていると思って「逸脱とOOSを減らす取り組みをしている。数値目標を設定して鋭意取り組んでいる」と説明しました。FDA査察官は「逸脱やOOSは作業者が自ら報告するものである。自ら報告するものに数値目標を設定すると報告が減るのでよくない」と言いました。FDAの査察があり、査察中に指摘されたことは、その日の夜のうちに改善して翌朝FDA査察官に報告して指摘事項の483Formから一つでも減らすことを行います。他の3か所の製造所に「ポスター剥がせ!」と生産本部は指示しました。そして翌朝、FDA査察官に「私たちの考え方が間違っていました。ポスターを剥がしました」と報告し、483Formに載ることは防ぎました。
 この話を後日聞いて、「言葉は誰の口から出るかで全然重みが違う。QA長の口からより、FDA査察官の口から出た方が重い」とつくづく思いました。そして、FDA査察官はさすがだと思いました。
 この話には余談があります。会社と取引している原料・資材メーカーや委託先には、「当然利益を上げてください。ただそれだけでは残念なのでわが社とお付き合いして、品質面でもUpして欲しい。私たちは御社を査察できますが、御社はわが社の製造所を見ることができません。でも見たいと思います。その時は言っていただければ見ていただきます。必要なら意見交換の場も設定します。それと御社でGMP研修をされているでしょう。御社のQA長がお話されるより、お客様である私がお話した方が言葉に重みがでます。かつ工場長も『寝るな!』と言われるでしょう。講師謝礼は無料です。交通費は弊社の費用です」と伝えていました。
 ある会社から講師の依頼が来て、お話しました。その中で「逸脱やOOSなど自分たちが報告するものに数値目標を設定してはいけないとの話をFDAの例を紹介しながらしました。講演が終わった後、担当者から「今年度、工場長の下、逸脱削減の数値目標を掲げて取り組んでいます」と言われました。工場長の施策を真っ向から否定してしまいました。もちろん削減の取り組みは素晴らしいことです。そこに数値目標を設定することに問題があります。

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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