GMP記録の信頼性確保と対応の考え方【第4回・最終回】

2018/07/27 品質システム

4.1データインテグリティーガイダンス概観
現在、データインテグリティーに関するガイダンスはWHO、FDA、MHRAおよびPIC/Sから示されています。これらは適用対象とする規制区分や考え方の力点が微妙に異なることから、タイトルの表現や章立てにそれぞれの特長が見られますが、共通する項目や記述も少なくなく、全体を通して見たときいずれも本稿のテーマであるGMP記録やデータの信頼性の確保を意図したものであることが理解されます。特に、ALCOA原則(ALCOA Principles)はデータの完全性確保の基本要件(属性)とされる概念として、すべてのガイダンスに共通して記述が見られ、いずれにおいても詳しい解説がなされています。(注1)
 
その一方で、これらのガイダンスには章立てに象徴されるように個々に特色も見られ、特に、FDAのガイダンスは完全性確保のためのデータの定義や取扱いに重点を置いた内容で構成され、加えて、用語の定義を含め実務的な事項が質問形式で項立てされている点において、他の3つのガイダンスと異なると言えるでしょう。これに対し、WHO、MHRA、PIC/Sのそれは、データの完全性確保に加え、記録・データの信頼性の確保に対する企業組織の関与にも配慮した項目で構成されているのが特長と考えられます。“Quality Culture”や“Organisational Culture”という用語がこれに関連するキーワードとして用いられ、記録・データの信頼性を確保するための重要な概念と位置づけ詳しく解説されています。また、関連して、“Data Governance”という用語も見られます。このことは、本稿の冒頭で述べた、GMP記録の“信頼性”は、データの“完全性”だけで達成できるものではなく、企業組織全体として、コンプライアンスを意識した取り組みが必要であるとの認識に基づくものと考えられます。
 
4.2 ALCOA原則とデータの完全性の確保
ALCOA原則は紙媒体電子媒体を問わずGMP記録・データの完全性確保の基本要件であることは周知のとおりですが、ここで、ALCOA原則の要点を確認し、GMP記録の信頼性の確保について考察しておきたいと思います。
「ALCOA」は、Attributable(帰属性)、Legible(判読性)、Contemporaneous(同時性)、Original(原本性)、Accurate(正確性)の頭文字から成り立つ頭字語ですが、GMPに限らずGXPの記録の完全性を確保するための基本要件と位置づけられ、上述のようにデータインテグリティーの4つのガイダンスのすべてにおいて引用されています。また、現在では、この5つの属性に加え、Complete(完全性)、Consistent(一貫性)、Enduring(永続性)、Available(利用可能性)の4つを加えて、「ALCOA+」として運用されるのが一般的です。これは、医薬品製造の過程で発生する製造や試験検査のデータや記録は、「ALCOA」の5つの属性を備えることによりその基本的な完全性が確保され、さらに、プラスされた4つの属性により、データの保存性や利用性といった側面をも保証することにより、より高度に完全性が確保されるという考えに基づくと考えられます。
 
以上、GMPのデータや記録の完全性を確保するには、記録媒体の種類に関わらず「ALCOA+」を意識して管理すると漏れのない対応ができることが理解されたと思いますが、PIC/Sのガイダンスにおいては、紙媒体記録への対応の考え方は第8章(Specific data integrity consideration for paper-based system)、電子媒体記録への対応は第9章(Specific data integrity consideration for computerised system)にそれぞれ詳しい記述があるので参考にされるとよいでしょう。また、電子媒体記録の取り扱いに関連する日本の規制としては、CSVガイドライン(注2)とER/ES指針(注3)があり、こちらも参照されるとよいでしょう。ちなみに、ER/ES指針の「3.電磁的記録利用のための要件」の項で示されている、「真正性」、「見読性」、「保存性」の3つは、記録の完全性確保の属性として「ALCOA+」に通じるものと言えるでしょう。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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