海外体験談【第3回(最終回)】

 私、海外勤務を終えて帰国後、現在、製薬・CMC関係のコンサルタントをしております 日比と申します。この度、CM Plus様から執筆依頼を頂き、50歳半ばから単身渡米しその後6年半の米国での勤務経験を中心に海外事情なども織り交ぜ、3回の連載を執筆させて頂くことになり、今回は最終の第3回目です。
 さて、前回第2回目では、50歳半ばからのアメリカ勤務時代の経験談をお話しさせて頂きましたが、最終の第3回目では、アメリカ勤務時代の経験等も踏まえ、私の視点で見たアメリカの製薬事情についてお話ししようと思います。
 
I.アメリカの医薬品市場:
 ご存じのように、アメリカの医薬品市場規模は世界第一位で、2010年の世界の医薬品売上総額8746億ドルの内、約1/3の3351億ドルを北米が占め(地域別市場規模ランキングで世界第一位)、その大部分がアメリカの医薬品の売上です。同年の欧州の医薬品市場規模は、2532億ドルと北米市場の3/4であり、地域別市場規模ランキングでは北米についで第二位でした。参考までに、2013年の国別の医薬品市場規模順位予測(上位から順番)では、アメリカ、日本、中国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ブラジル、カナダ、イギリスとなっています。ちなみに、同年の日本の医薬品売上高は1023億ドルで北米の約1/3ですが、国別世界ランキングでは米国に次ぎ世界第二位です。
 また、世界の大手製薬会社の2010年売上上位10社の内5社がアメリカ企業であり、他の5社は全て欧州の製薬会社でした。2010年における世界の大手製薬会社とその売上高は以下の通りです(上位順で、( )内は国・売上高(単位:億ドル))。ファイザー(米:556)、
 ノバルティス(スイス:468)、メルク(米:384)、サノフィアベンティス (仏:358)、アストラゼネカ(英:355)、GSK(英:336)、ロシュ(スイス:326)、J&J(米:267)、アボット(米:238)、イーライリリー(米:221)。ちなみに、武田は13位で売上高は155億ドルでした。
 上記米国製薬会社5社の2010年売上高合計は1666億ドルとなり、この5社で、同年の北米での売上高のちょうど半分を占めています。また、2012年の世界のブロックバスターの売上世界上位10品目の内、4品目がアメリカ企業の製品でした。(残り6品目はすべて欧州の企業) 以上のように、現時点でも、昔と変わらず、アメリカは製薬ビジネスにおける世界の中心地であり続けています。
 
II.最近のアメリカ製薬業界の傾向・特徴:
 それでは次に、最近のアメリカ製薬業界の傾向・特徴を、日本と比較して説明したいと思います。初めに日本と共通の傾向・特徴について、次いで日本と異なりアメリカ独特の傾向・特徴について、それぞれ説明します。
 
1)日本と共通の傾向・特徴:
 ・ブロックバスターの相次ぐ特許切れによる製薬企業の減収
 ・承認基準の厳格化、臨床開発段階での成功確率の低下等による新薬承認数の減少
 ・従来の合成低分子医薬品からバイオ医薬品に比重がシフト
 ・治療ニーズが生活習慣病領域からUnmet medical needs領域にシフト
 ・オーファンドラッグの申請数増加
 ・製薬企業が自社パイプラインの枯渇補填の為、有望な新薬を開発するベンチャーを買収
 
 これらの傾向は、日米のみならず欧州も含めた世界的傾向とも言えると思います。
 
2)日本とは異なりアメリカ独特の傾向・特徴:
 ・先発品特許失効後の日本より遥かに高い後発品への切り替え率 ⇒(理由)公的医療保険
  制度がなく日本より医療費が高いので、安価な後発品ニーズが大きく切実な為。
 ・薬価は、売り手のメーカーと買い手の保険会社・病院・薬局との間で、市場競争原理に
  基づき決定。
 ・新剤型・新投与経路・DDS等の医薬品も、新有効成分医薬品も、等しく市場競争原理
  により薬価が決定 ⇒ (コメント)米国は、製剤研究の努力・成果に対する適正な
  リターンが期待できる可能性が大きい市場!
 ・産官学の連携がより緊密 ⇒(コメント)産官学の連携促進に、学の代表の一つ
  AAPS(American Association of Pharmaceutical Science)が果たす役割は大きい。
 ・米国で販売されている医薬品の輸入比率が年々上昇 ⇒(影響)FDAの海外製造施設への
  GMP査察件数増加・予算不足等のため、効率的なGMP査察体制の構築が急務 ⇒
 このような背景から以下のような対応が取られたのではないかと推定。
 -製造施設のシステム査察の導入(ICHQ10 品質システム)
 -PIC/Sへの加盟
 -海外製造施設への査察頻度の見直し

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