【第7回】デジタルヘルスで切り拓く未来

 

「2024年における進展」



●要旨
 2024年は、医療4.0の視点のとおり、医療の構造や私たちの行動に大きな変化が生じ、社会も変化するでしょう。法制度の枠組みも調整が必要となる一方で、周辺分野との組み合わせや融合が一層進むことで変化を乗り切ることも必要となります。テクノロジーの発達とバックキャストアプローチ の重なる部分に目を向けましょう。これからの社会に目を向けて実装しなければなりません。
 
●はじめに 大変化の年、2024年
 2024年が始まりました。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。2023年は様々な変化がありました。2024年は、それが本格的に環境の変化として明らかになると予想しています。これは、医療4.0の考え方をあてはめてみるとわかります。医療の場所が変わり、あなたのためのデータの使い方が本格化し、そして、医療の主体はあなたであるということです。科学技術の発達だけでなく、それをどう使うか、その主体にまで考えが及ばないと、より良い暮らしには繋がらないことに気づかなければなりません。つまり、社会実装まで考えることができるかどうかが求められます。
 単にものやサービスだけを考えているのでは不十分で、これからの社会を意識しておくことが大切です。2024年は枠組みが変わるといっても過言ではない一年になることが予想されており、その中で、必要とされることにも変化が生じるでしょう。

<図表> バックキャストアプローチ


1 社会実装とは何か
  社会実装には様々な手法があります。ビジネスとしての手法もあれば、社会的認知の手法もあります。前者は、まず安価にすることで使い手を増やし、インフラ整備をどんどん進めて、市場を育てていく、通信事業がその事例です。医療では、保健衛生上の観点から周知を図り、行動変容を目指すために仕組みを作ることが多く、後者の方法が多いです。
 新しい技術の導入において、皆さんに馴染みが深いのが、ガイダンス・ガイドラインの整備や相談制度の充実などですが、DASH(プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略)も社会実装のステップの一つです。ガイダンス・ガイドラインや法制度の制定については、規制強化であり、経済活動を阻害するという意見もしばしば聞かれますが、多くはそうではありません。安全性や倫理の確保をしつつ適正な方向へ環境整備をすることで、保健衛生の向上を図ります。これは薬機法の最初に書かれていることと同じです。サイバーセキュリティの注意喚起や、開発ガイドラインと評価指標の制定はその中に含まれます。今は、すぐに科学技術が進歩し、社会的な構造も変化しますから、適切に見直しが必要です。2023年までに起きた様々な変化を受けて、2024年においては、調整が行われることでしょう。
 人々のアクセプタンスにも目を向けましょう。今や高齢者はデジタルが使えないのではなく、高齢者でも使える、さりげなく寄り添うことができるものが増えています。介護等で使われるロボットも、私たちの社会に溶け込みつつあります。支払いのあり方もキャッシュから、電子的な手法が一般化しています。医療やヘルスケアに対する価値観も変化し、デジタルヘルスへの向き合い方も2024年はもっと進化するでしょう。入力システムの改革など、さりげない寄り添いのテクノロジーと共に進み、事業化の魅力があるでしょう。デジタルの経済圏にも目を配りながら、実装を考えていくことが大切です。

2 ヘルスケア周辺への積極的展開
 暮らしの中に医療が入り込み、主体的にヘルスケアに取り組む、そうせざるを得ない時代には、ライフスタイルにおける変化が始まります。例えば、移動中の車両で健康状態をトレースできるとしたらどうでしょうか。今やMaaSなどの仕組みも構築が進んでいます。すでに救急車の中でモニタリングし、リアルタイムで把握するシステムはありますが、それが一般社会の中で実施されるとしたら、どうでしょうか。また、災害大国である日本の防災とレジリエンスとの組み合わせはいかがでしょうか。これらの融合ができなければ、サバイブすら厳しいのかもしれません。
 2024年には、社会構造の変化と、気候変動の影響を真剣に考える時期になるでしょう。これまでのスタイルの延長はもちろん、品質確保だけを史上命題にしていてはダメな時代です。デジタルだけでもダメ、ものづくりだけでもダメ、必要なことは、その組み合わせや融合です。
 こう考えを進めていくと、ニーズ対応よりは、こんな未来でありたいと思う像からバックキャストアプローチの方がしっくりきます。この手法自体は、内閣府厚生労働省による数年前のビジョンペーパーでも採用されています。その頃の内容と今を突き合わせて、どのくらい進んでいるかをみるのも良い時期だと思います。ただし、気をつけておきたいのは、その後にcovid-19や世界的政情不安を背景に社会構造の変化が想定よりも大きく変化したことや、気候変動が保健衛生に与える影響が無視できなくなったことなど、ビジョンの手直しが必要と思われる部分があることです。
 第1回で紹介した医療4.0の背景にある医療のリソース問題と主体性問題とすり合わせてみてください。テクノロジーの進歩で支える必要のある部分が見えてきます。

3 予測するか、導いていくか
  何かを予測する時には、外挿することが真っ先に浮かびます。科学現象の多くは、グラフを描いて、先を予測したり、プラトーを探したりします。バリデーション行動もみなさんにはおなじみだと思います。最近では、すでにあるデータの集積を利用して、そこから精度の良い予測ができないか、試みも多くあります。ここにもデジタルヘルスの可能性があります。しかし、前例のないことがよく起きる今日では、未来を描く行動も大切ですから、ビジョンペーパーに書かれていることを参照するのも良い方法です。
 ガートナー社のハイプサイクル等に関する資料の参照も良いと思います。毎年発表されるもので、テクノロジーがどのように実装されていくかを分析しています。例えば、人工知能やメタバースなどもその中にあります。新しい概念も追加されています。残念ながら全てのテクノロジーがこのサイクルに沿って進化するものではありません。 しかし、山を超えて谷を迎えて、緩やかに普及期に到達する予想を眺め、そのために何を整備する必要があるか考えることは重要です。
 つまり、テクノロジーの進み具合と、ビジョンからのバックキャストアプローチがうまく重なるところが、進展していくことになります。その上で、社会の受容をよく設計する必要があります。その時には、サイエンスコミュニケーションの技法が役に立ちます。最近の芸術祭やサイエンスカフェを見ていると、少し未来をテーマに科学技術と社会の融合を試みる際に、アートの文脈が見えます。皆さんには、美意識があるでしょうか。
 

 

 

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