【第6回】デジタルヘルスで切り拓く未来

 

「社会の変化とデジタルヘルス この1年を振り返る」



●要旨
 社会的にもテクノロジー的にも変化の大きかった2023年。社会構造と医療には深いつながりがあります。早い時期から地方で生じた変化は都会へ波及します。その中で、どのように人工知能(AI)を導入し、何を大切にするのか、深い考えが必要です。デジタルヘルス全体において、構造の変化が始まったともいえる2023年は、2024年に起きる大変化へのプレリュードです。
 
●はじめに 変化の大きかった2023年
 2023年もあとわずかです。医療の世界だけでなくかなり大きな変化が見えた一年でした。医療の世界では、医師の働き方改革等、さらなる大きな変化を強いられる2024年が控えています。この動きは、医師だけのものではなく、医療従事者、パラメディカルはもちろんのこと、私たちの全てに変化が起きるでしょう。タスクシフト、タスクシェアの実践はもちろんのこと、私たちの健康行動そのものにも影響し、地域包括ケアシステムの内外で色々と響き合っていくことでしょう。
 社会の変化とデジタルヘルスに資するテクノロジーの進歩について、2023年を振り返りますと、2024年の大変化に向けて、テクノロジーの導入が必須であったと思います。イノベーションは、事業化、社会実装というフェイズに入って、進化を発揮することを、私たちは目の当たりにしています。

<図表> 私たちとデジタルヘルス

1 地方、地域は大切な鍵になる
 「地方には未来があります」と、何度も繰り返してお伝えしています。これには2つの解釈があります。人口構成の変化が都会よりも早く起きること、その対応は都会よりも早く始まることです。特に、人がいない、少ない状況において、デジタルを活用していこうという動きは強いものです。例えば、農村部にある農産物の無人販売所です。昔からありますが、今やQ Rコード決済も可能なところが出てきています。誰もいなくても、ビジネスは成り立ち、時には料理方法を示すウェブ上の素敵な場所への動線としてのQ Rコードも提示されています。このような仕組みは、最近の都会での海産物や食品の無人販売にも生かされています。
 ただし、気をつけなければならないのは、地方と都会では、デジタル対応のスケールや文化的背景に違いがあるかもしれないことです。地方では、早くからセルフレジと電子マネーが受け入れられてきましたが、都会ではまだまだ、従業員を探すお客さんが多く、人がいないことへの慣れがない人が多いようです。また、誰かにやってもらいたい気持ちも見え隠れします。したがって、デジタルによる介入において受容が十分でないことや、メンタルモデルの違いに意識を向ける必要があります。地方での精細な観察にヒントがあります。もちろん、地方にもいろんな人がいますから、よく観察してみてください。
 また、孤独への耐性という意味でも、都会はこれから深刻なことがあるでしょう。まもなく団塊の世代の多くが後期高齢者に到達し、家族のあり方も過ごし方も変わります。先立たれた孤独もあれば、非婚のまま歳を重ねていく中年の問題もあります。社会的な制度やサービスの設計にも手を加えていかなければならないでしょう。

2 どこに人工知能を利活用するのか
 社会構造的にかなり厳しい状況が進むなか、2022年の終わり頃からの生成系AIのめざましい発達は私たちの関心を引きつけ、2023年には、サービスとして実装され、身近なものとなりました。人工知能(AI)自体は、発達を続けていますが、誰でも使えるようになり、私たちに馴染みの良いものになったことは大きな変化です。
 最近は、デジタルヘルスのためのニーズ発表会やワークショップの機会に、「A Iでなんとかする」、「A Iでなんとかできればいい」という言葉をよく聞くようになりました。先進的な医療にAIを導入するだけではなく、もはや、私たちの暮らしの中に、AIが必要とされていることがわかります。しかしながら、どうありたいか、それはAIを使わなければダメなのか、と考えることも大切です。
 今年の日本在宅薬学会のシンポジウムにおいて、薬局等の業務にAIを導入したいか、のアンケートがありました。薬局は、単なる物売りではなく、医療提供施設です。患者さんへの対応をAIにさせるのではなく、日々の付帯業務において、AIで効率化することを強く望んでいる結果が示されました。予約や発注と受け入れの管理の効率化の結果、患者さんと向き合い、アドヒランスの時間をもっと増やすことを望んでいます。服薬指導そのものをAIで置き換えようと考えてはいませんでした。
 医療の中で、何を大切にしようとしているか、が大事です。今年の生成系AIの大きな発達は、現場の業務の非効率を減らしていくと期待できるものであり、その先もさらに期待していますが、効率化の先に何があるか、をよく見つめる必要があります。
最近の生成系AIの発達は、コミュニケーションを滑らかにすることが期待できます。より自然な表現ができるようになっているからです。ですが、人間の代わりではありません。
 診断支援のAIなども色々な製品群が身近になりました。名医の技術を普及させるようなものや、専門医によるサポートなどです。また、行動変容の分野でも、治療時間の空白域を中心に、自然な介入ができるようなものが増えています。優れた医師のための優れた道具を発展させる発想よりも、今の社会にフィットすることを大切にするムードの変化です。ただし、どのようなデータから作り出したAIなのか、また、その結果について説明ができるものか、医療では高い信頼が必要です。そのためのまなざしも重視され始めたのも2023年であり、各種AI宣言等が発出されました。

 

 

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