固形製剤のスケールアップ【第1回】

はじめに
 固形製剤を担当する者にとってスケールアップは厄介な問題である。スケールアップで失敗した経験を持っておられる方は少なくないであろう。なぜそれほどまでに固形製剤のスケールアップが難しいか?理由はいろいろあるが、もっとも大きな理由は、固形製剤が多成分系を取り扱うという、持って生まれた宿命のためである。単一成分系であれば、あるいはせいぜい2成分系であれば、なんとか数式から解を導くことができるかもしれないが、それ以上の成分を混合するともなれば、さらには各成分さえそれぞれにばらつき(例えば、粒度分布など)をもっているとなれば、一層難しくなる。
 
 その他にも固形製剤のスケールアップを難しくしている理由はいろいろあるが、それらは各論における考察に譲るとして、まずは固形製剤のスケールアップの概論から展開してみたい。
 
1.スケールアップの目的
 医薬品の製造にはスケールアップが必ずと言っていいほど必要になってくる。ごく一部の例外を除いてスケールアップが必要な理由は、
 
1)開発段階では原薬を使用できる量が限られており、小さなスケールで検討を始めざるを
  得ないこと
2)前項とほぼ同じだが、開発段階で高価な原薬を大量に使うことは、経済的にも効率的に
  も不相応なこと
 
 などが挙げられる。
 
 したがって、開発のステージが進むにつれてスケールを上げていき、最終的に商用生産に移る時にはさらにスケールを上げるのが一般的である。
 医薬品はその性格上、安全性と有効性が最優先される品質である。この安全性と有効性は開発のステージで確定される。このことは、すなわちある製品の安全性と有効性を確固たるものにした時の、そのサンプルの製造スケールは商用生産のときより小さいのが一般的であることを意味する。したがって、この安全性と有効性とを確立した時のサンプルの品質は、商用生産で製造した製品にも担保されていなければならない。すなわち、スケールアップの前後で品質は同等でなければならない。当たり前のことだが、これがスケールアップの最終到達点である。
 
 もう一つ、スケールアップの目的として挙げておかなければならないのが効率である。スケールを上げるのは当然ながら効率を上げたいから行うのである。効率を上げる、すなわち費用に対する成果を上げることが目的である。したがって、スケールを上げても効率が上がらないのであれば、それはスケールアップをした意味がない。しかしながら、スケールアップにおける失敗事例はここに落とし穴がある場合が多い。失敗事例の多くは、小スケールの時とまったく同じ時間で処理しようとしてしまうことによる。もちろん同じ時間で処理できることほどよいことはないが、ほとんどの場合それは難しい。あくまで、費用対効果で評価し、これが上がれば目的は達する。これらの失敗事例についても各論で述べる。
 
表-1 スケールアップの目的

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