医療機器リスクマネジメント-国際規格の要求事項と実践対応-【第6回】

リスク低減とリスクコントロール
リスク評価の結果、受容できないリスクがあった場合には、そのリスクを受容できるレベルまで低減しなくてはならない。そのためには、危害の発生する確率を低くするか、発生する可能性のある危害の重大性のレベルを下げる必要がある。ISO 14971では、次の優先順位に従って、リスクコントロールをすることを求めている。
② 医療機器自体又は製造工程における防護手段
③ 安全に関する情報
危害が発生しにくい安全な構造に設計を変更することは、もっとも確実なリスクコントロール手段である。また、故障が少ない信頼性の高い設計にすることで、危害の発生確率を低減することができる。
典型的な防護手段としては、安全カバーがあげられる。機器に危険状態が発生しても、その危険状態にヒトが近づけないようするか、又はその危険状態が周りに広がらないようにすることで、リスクを低減することができる。ISO 14971では、危険状態が生じたときのアラーム発生も、防護手段と位置付けられている。医療機器のアラームについては、国際規格IEC 60601-1-8(対応JIS規格 JIS T 60601-1-8)に規定がまとめられており、これに基づいて医療機器のアラームシステム仕様を設定しなくてはならない。
安全に関する情報は、機器の使用者への注意喚起を指す。「高温注意」「感電の危険」などを機器に表示して取扱いについての注意を喚起することで、危害の発生確率を低減できるとされる。また、取扱説明書にこうした注意喚起の情報を記載することもリスク低減の手段である。しかし、こうした安全に関する情報は、機器の使用者が読まないこともあれば、時には無視されることもある。安全に関する情報提供によるリスクコントロールには、このようなリスクが残されていることに留意する必要がある。なお、ISO 14971では、機器の保守点検、定期点検なども、安全に関する情報によるリスク低減手段に含めている。
リスクコントロールの実施により、全ての残留リスクが受容可能になれば、製品開発段階でのリスクマネジメント作業は終了である。しかし、残留リスクには受容の可否判断が難しいものがあり、次に述べるような対策を取る必要が出てくることがある。
ALARP
リスクの受容可否を判断するためには、危害の発生確率とその重大性を見積もる必要がある。しかし、危害の発生確率は一般には低く、一般常識では受容可能と思われるリスクでも、その危害の発生確率を正確に見積もることが困難なことも多い。こうした場合に、ALARPと呼ばれる手法が、医療機器を含めた工業製品一般のリスクマネジメントで使用されている。
ALARP(一般に「アラープ」と呼んでいる)とは、as-low-as-reasonably-practicableの略で、「合理的に実施可能なできるだけ低い領域にする手法」と訳されている。ISO 14971では、無視できない残留リスクではあるがリクスマネジメント計画で定めた基準では受容できないとも判断できないリスクに対し、「実施可能なできるだけ低いレベルまでリスク低減することで、受容可能とすることができる」と解説している。最新技術(state of the art)、リスク受容によってもたらされる効用、更なるリスク低減の実施可能性を考慮して、可能な限りのリスクコントロール実施により、最も低いと考えられるレベルまでリスクを低減することが望ましいとされる。図6-1は、リスクの受容性とALARP領域を概念的に表したものである。

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