GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第24回】

2019/09/06 品質システム

1.実効性の評価
 GMPは、改善を阻むとの声を聞いたことがある。果たしてそうであろうか。
Kaizenとは:いわゆる「改善」のこと。カイゼンと表記すると、おもに製造業の生産現場で行われている作業の見直し活動のことを指します。作業効率の向上や安全性の確保などに関して、経営陣から指示されるのではなく、現場の作業者が中心となって知恵を出し合い、ボトムアップで問題解決をはかっていく点に特徴があります。この概念は海外にも「kaizen」という名前で広く普及し、とくにトヨタ自動車のカイゼンは有名。トヨタ生産方式の強みの一つとして高く評価されています。
 GMPは、基本、指図をし、それに従って作業するというイメージからトップダウンともいわれるが、私はそう思わない。品質や作業の面で問題があり、それを是正する場合、GMPはトップが指示することに限定していない。改善策を現場から上げ、責任者の承認を受けることをGMPは求めている。現場が勝手に作業することを禁じているだけである。効率化として改善する時、品質等に問題が生じていない場合は、変更管理として必要なリスク分析等を行い、サイトQAの承認を得れば何も問題はない。
 例えば、保管庫等の温度記録について、アナログでの作業者による温度記録をしていたものを温度データロガーに切換えるケースを考える。目的は、人による記録の省力化、温度監視の徹底を図ることである。手順書の改訂等の低減策が必要と判断する前に、この影響する範囲等をリスク分析しなければならない。現場からの変更提案がされ、リスク分析する時、今までとの変更点を探ることが重要である。アナログ式で自記記録計を使用しており、1日2回の温度確認をしていたとする。この場合、休日の間は確認できないことに課題がある。単に温度データロガーでは、このリスクを低減はできない。温度データをいつ読み込むかで、休日以外でも温度逸脱の発見が遅れる可能性が生じる。低減策として、温度逸脱の発生の際、通報システムの利用が必要となる。休日もメール等を利用して担当者や責任者へ連絡されるシステムである。当然、温度逸脱通報システムはCSVの対象となるが、多くのシステムはカテゴリー3の扱いであり、CSVの作業も納品業者が実施することになろう。この低減策の有効性評価や想定外の影響がないことを確認すれば、変更管理として問題はない。どのようなKaizenも納入にあたり、リスクや影響する点を考える必要はある。しかし、その変更処理が面倒だからと言って、Kaizenに取り組まないこと自体が問題である。GMPがKaizenに取り組まない理由にはならない。Kaizenに取り組む会社や製造所の雰囲気づくりを怠るべきではない。
 Kaizenを進めるためには、現場から声が上がるシステムを構築することが重要である。逸脱が発生する前に、現場から作業のやりにくい点やヒヤリハット、非効率的な点等に気付き、解決策を見出す状況が大事である。作業者に問題意識を持たせ、リスクを認識させることにより、Kaizenが進み、ヒューマンエラー防止となる。また、CAPAとしての予防措置にもつながることになる。作業環境を作業者自らが改善に向けた活動することで、作業の効率化が図られ、ヒューマンエラー防止となる。Kaizenは、現場から取り組むことこそ、効果があがるものである。

2ページ中 1ページ目

執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

89件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます