行政と現場で紡ぐ品質文化 ~「医薬品製造業者等の品質保証体制強化」とその先へ~【第3回】
■対談者:
• 橋本 明日香(奈良県庁 薬務行政担当)
• 田中 良一(株式会社シーエムプラス シニアコンサルタント / 元厚労省GMP指導官・元京都府庁)
■実施日時:2026年3月19日(木)
■実施場所:株式会社シーエムプラス(神奈川県横浜市)
■第3回:奈良県における取組み~行政と企業の理想的な関係を目指して~
田中: ここからは、現場の具体的な課題について少し伺っていきたいと思います。
近年、PQS(医薬品品質システム)の実装など、GMPが求める「ソフト側」の要求はどんどん高度化しています。
その対応をもちろん大変だと思いますが、奈良県には歴史ある工場も多く、必ずしも最新鋭の設備ばかりに変更できているところばかりではないと思います。
昔からある設備を使い続けるのは、現場としても大変な部分があるのではないでしょうか?
橋本様: おっしゃる通りです。例えば、錠剤の打錠機なども古い機械だと、データが全く電子的に出てこないものがあります。
圧力の自動制御が入っていない時代の機械を、今でも大切に使われている製造所もあるんです。
田中: そうなると、工程管理をどうやってデータとして担保していくのかが非常に難しいですよね。
橋本様: 最新の機械ならパラメーターで管理できるところを、現場の作業員の方の音の聞き分けなどといった部分にも頼る箇所が出てきます。
現場の方にお話を伺うと、やはり機械の音などで判断されていることが多いようです。
しかし、GMPの観点から言えば、そうした部分はできる限り、文書化や手順化をして記録いく必要があります。
田中: そうした方々に対して、行政としてどうやって手順書化していくよう指導されているのでしょうか?
橋本様: 現場の方々にとっては、その状態で製造することが通常のことであり、長年の成果でもあります。
ですから、それを組織内で文書化してくださいと言っても、最初はなかなか理解に至りません。
そこで私たち行政が現場に入り、「いつもどうやって、やっているんですか?」と丁寧に情報を聞き出すようにしています。
「そのタイミングはどうやって判断しているんですか?」とヒアリングを重ねて、じゃあまずはそれを簡単な手順にしてみましょうか、と一緒に作り上げていく感覚です。
田中: 行政官がそこまで現場に入り込んで、紐解くサポートをされているのですね。
ある意味、長年の経験を持つ現場の方々を尊重しながら今のGMPのレベルに引き上げていくのは、非常に高度なコミュニケーションが求められますね。
橋本様: そうですね。ただ、いずれにしても機械の寿命は来ますし、どこかの段階でハード(設備)自体を更新していかないと、仕組みとして行き詰まってしまいます。
田中: 改修予算が出ない中小企業の現実もある中で、行政としてはどのような支援ができるとお考えですか?
橋本様: 最近の奈良県の取り組みとして、薬務・衛生課単独ではなく、産業振興の部署などと連携を図るようにしています。
例えば、「機械を更新したいけれど資金がない」という企業に対して、「こういう補助金の制度がありますよ」と情報提供し、資金面でのサポート制度に繋げるような動きです。
規制に伴う指導をするだけでなく、企業が持続的に良い製品を作れるよう、そうしたお金や制度の面でも橋渡しができればと考えています。
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