ドマさんの徒然なるままに【第95話】 ま、イケる

第95話:ま、イケる

残暑お見舞い申し上げます。この「ドマさんの徒然なるままに」のタイトル元でもある吉田兼好の「徒然草」の第55段には『家のつくりやうは夏を旨とすべし』と記されていることから、昔も暑かったのであろう。が、最近の暑さは異常とも言える。当地ではまだ40℃を超えてはいないものの、個人的には酷暑(酷な暑さ)である*1

さて話変わって、本年6月に映画「Michael/マイケル」が公開されました。キング・オブ・ポップ(King of Pop)と称されるマイケル・ジャクソンの伝記的映画です。あの大ヒットした「ボヘミアン・ラプソディ」の製作陣による作品とのことです。「ボヘミアン・ラプソディ」については、映画のヒットに合せ、2019年3月8日付の第2話オーディター・ラプソディとして実施する側のオーディターを中心にその悲哀について書きました。そんなこともあり、今回はオーディットを受ける側の心理を中心に本話を書いてみました*2

オーディットを実施する側と受ける側の両方をたくさん経験した者としては、当たり前ですが、間違いなく受ける側のほうがその準備も含めて大変です。まして、その中心となるQA長の立場となれば、その心理はいったいどうなのか。経験者にあっては、自身の経験したオーディットを思い出しながら、まだ受けていない方にあっては、受ける際の状況・心理を想像しながらお読みいただければ、今後の参考になるかもしれません(ならなかったと言われてしまうと予想していますが・・・)。
それではスタート!


 スリラー(Thriller)1982年リリース
初めて監査対応リーダーとして指名されたQA担当者、準備は万端に備えたつもりで、前日には「アレ良し、コレ良し」などと反芻するものの、何となく不安がよぎる。周囲は「お前ならば大丈夫だよ!」と励ましてくれるものの、本人は「もし大きな指摘を受けてしまったら?」といった、スリラー的不安におびえる状況を歌ったものである。
[筆者コメント]
普段から一つ一つをきちんとやっているのであれば不安を抱くことはありませんよ。むしろ「自分たちはちゃんとやっている」という思い込みのほうが怖いですよ。経験的に言えば、「コレは大丈夫」という思い込み(上っ面の対応で本質に至っていない事項)で指摘を受けるケースが思いの外多かったように思います。
ちなみに、この“thriller(θrílər)”という言葉、個人的には発音が難しいと感じています。

 今日はビート・イット(Beat It)1983年リリース
監査当日の朝、今日は「頑張るぞー、やられてたまるもんかー!」と自分に喝を入れる応対者。その意気込みは理解しますが、そもそも監査って勝負の世界の話じゃないですよ。勝ち負けはないですし、相手をどうにかする(やっつける)ものでもありませんよ。
[筆者コメント]
そうは言っても、「この野郎!」と思うオーディターがいるのも事実です。そういった相手に対しては、「ぎゃふんと黙らせる」くらいの知識とテクニックを養いましょう。知識については自分の努力次第で身に付けられます。テクニックについては、数をこなすのが一番近道ですかね。ただ、自分がオーディターとして他社(他製造所、供給先)に監査に行くことでも身に付けられますよ。受ける立場を客観的に評価してみてください。

 ベン(不便)のテーマ(Ben)1972年リリース
オーディターから「その手順、GMP的には問題ないのですが、運用として煩雑で不便じゃないですか?」と問われ、応対者がむきになって反論し出すという状況を歌っている。
[筆者コメント]
この手の者、思いの外、大手さんに多い。自社のGMP運用に自信があり、愛社精神が強いとも言えるのだが、ある意味Blind Compliance色が濃い者の特徴として現れる傾向がある。「GMP的に問題ない」とされているのだから、「ご提案ありがとうございます。でも現在の運用で支障ありませんので、当面はこのまま継続します。」とでも答えれば良いと思います。
ちなみに、本曲は、少年とネズミの友情をテーマとしたサスペンスパニック映画「ベン」の中での曲ですが、映画は結構怖かったのに対し、本曲はマイケル・ジャクソンの少年時代の優しい声のバラードだったのが変に印象的だったと記憶しています。

 キャント・ストップ・オブザービング・ユー(I Just Can't Stop Loving You)1987年リリース
オーディターから、あれやこれや言われてしまっている応対者。キチンと答えようとはするものの、あまりの一方的な押しに困惑してしまう。自分が不慣れなせいなのか、それとも受託として言い返すことの限界を感じでのことか、ちょっと可哀想な状況を歌ったものである。
[筆者コメント]
オーディター、ハッキリ言ってピンキリです。質問も指摘も妥当なものもあれば、頓珍漢(とんちんかん)としか思えないものもあります。大事なことは、質問された時点、指摘であればラップアップ時に充分に確認することです。オーディターが正しいとは限りません。勘違いしている場合もあれば、感覚的に言っている場合もあります。逆に、適切な場合であれば、良いサジェスションやアドバイスとして受け止め、「ありがとうございます」の言葉とともに改善に努めましょう。

 ヒール・ザ・ワールド(Heal the World)1992年リリース
突然、HSE(Health, Safety & Environment)の質問を受けた応対者、「えっ?」と焦ってしまい、上手く答えられない。曖昧な回答に疑問を感じたオーディター、「貴社ではHSEのことを地球規模で考えたことはないのですか? 地球温暖化やサステナブルに対する貴社のお考えはどのように?」と言われてしまった応対者の心理を歌ったものである。
[筆者コメント]
オーディターの中には、HSE関係の質問をしてくる者もいます。一方で、HSEはGMPの要件ではないと思い込んでいる会社(製造所)もあります。一昔前ならばともかくとして、現在ではHSEはGMPの一環(一部)として解釈運用が求められます。その程度はともかくとして、自社(自製造所)としての取り組みくらいは認識しておきましょう。
ちなみに、個人的には、この「Heal the World」が好きです。

 ブラック・オア・ホワイト(Black or White)1991年リリース
オーディターの質問に適切に回答していたは良いが、ある質問に対して、「いや、そうじゃないでしょ!」と反論した応対者。オーディターも自分の質問の意味が充分に伝わっていないと察知して言い換えれば良いものの、未熟なせいか「いや、普通はこうでしょ!」といった言い方をしでかす。感情的な言い合いとなってしまったさまを歌ったものである。
[筆者コメント]
この手の言い合いは避けるべきです。監査は黒白付ける勝負ではありません。未熟なオーディターにありがちなのは事実ですが、受ける側としては、より冷静かつ客観的な表現で答えることをお勧めします。あくまで個人的な話ですが、この手のオーディターに対しては、心の中で「こいつバカだな!?」と思って相手していました。

 今晩はドント・ストップ(Don't Stop 'Til You Get Enough)1979年リリース
書面調査でオーディターから“矢継ぎ早”に質問された応対者、「もうこうなったら、徹底的に相手してやろうじゃないか!?」と自分に言い聞かせている心境を歌ったものである。
[筆者コメント]
アジェンダに沿った進行が遅延しているのであれば、それはオーディターの不備でもあります。ある程度のお付き合いは必要ですが、翌日もあるのであれば、さりげなく「予定が遅れていますので、今日はこのくらいで切り上げ、翌日に再開としては、いかがでしょうか?」と切り出すことも必要かと思います。当日だけという場合であれば、「お帰りの列車(or フライト)は大丈夫ですか?」とでも伝えてあげては? まっとうなオーディターであれば、「申し訳ありません。この点だけ確認しておきたいのですが?」とでも言って整理し出すと思います。

 びり、ジーン(Billie Jean)1983年リリース
やっとラップアップに入った。かなりの指摘が出されることは覚悟していたものの、「お前のところは最低だよ!(びりっけつ?)」とも受け取れる言い方をされる。オーディター自身はそんなつもりはなかったのであろうが、誠意も敬意も感じられない。言われた側としては、大手のお客様だからと自分に言い聞かせて、ジッと我慢するという心境を歌ったものである。
[筆者コメント]
通常そんな酷い言い方をするオーディターはいませんが、稀に言葉足らずというか、表現が乏しいというか、カチンと来る言い方をする者がいるのも事実です。オーディターを養成する場合、単にGMPの知識量で測るのではなく、人間性も踏まえた資質を重視して貰いたいといったら失礼でしょうか。また、どんな会社(製造所)であっても、“良い点”はあります。委受託関係であれば、良い点を挙げることで関係を良い方向に持って行けますし、指摘に対しても前向きな向上を期待できるでしょう。ジーンとくる言い方だってあると思いますよ。
過去、筆者の監査セミナーでは、『オーディターは品質の親善大使である』と伝えていました。
オーディターとして、また監査を受ける立場として、褒められることは滅多にないかもしれませんが、ゼロではありません。そんな話を第30話グッジョブ!として書いていますので、宜しければお読みください。

 バッド(Bad)1987年リリース
監査は終了したものの、いくつかの、しかも結構重い指摘を受けてしまった応対者。自分が失敗したからと思い悩み、自信を喪失してしまう。そんなQA担当者の心境を歌ったものである。
[筆者コメント]
思い悩む必要なんてありません。あなたの応対に問題がなかったわけではないかもしれませんが、指摘自体は貴社(貴製造所)のGMP組織に対して出されたものであり、求められる本質の理解と運用が不充分であったという事実が露わになっただけで、あなた個人の問題ではありません。むしろ、指摘を受けて「何が問題で、どう改善を図るか」が問われているだけです。そうやって成長することを期待します。

 ユー・アー・ナット・アローン(You Are Not Alone)1995年リリース
いくつかの重い指摘を受け、落ち込んでいるのを知った周囲の者たちが、「お前は良くやったよ。これから改善していけばいいんだよ! お前はひとりじゃないからな!」と声かけしてくれる。そんな仲間の思いやりと優しさを歌ったものである。
[筆者コメント]
前項にも記したように、GMPの指摘は個人のものではありません。まして改善となれば、組織としての協力がなければ向上など望めません。「Quality Cultureの醸成」なんて言葉よりも、こんな些細なことでそのレベルや実態が現われます。お宅はどうですか?
ちなみに、あくまで筆者個人としてですが、周囲から優しい言葉をかけられたことはありませんでした。別に恨みはしませんが、事実です。

 想い出の一日(One Day in Your Life)1981年リリース
監査が終了し、オーディターがお帰りになる。当日はともかくとして、翌日以降に冷静になって振り返る応対者の心境を歌ったものである。少なくとも、指摘を受けたとなれば、否応なしに改善対応計画を立てなければならないでしょうし・・・。
[筆者コメント]
指摘の有無に関わらず、監査受けは結構記憶に残ります。印象深いもの、在り来たりのものがありますが、まったく記憶に残らないということはないと思います。大事なことは、今後のために、事後に整理して振り返ることだと思います。そういった行動が“継続的改善”、しいては“Quality Cultureの醸成”に繋がるんじゃないでしょうか。


さて、いかがでしたでしょうか。外部委託先の管理や原材料の管理の一環として、GMPでもGQPでも監査が求められる状況になりましたが、書き物でもセミナーでも実施する側の内容(どちらかと言えばHow to物)のほうが受ける側よりも多いような気がします。率直に申し上げて、受ける側として準備すべき資料やツール、担当の分担はともかくとして*3、受け答えの事例、ましてHow to物についてはあまり当てにしないほうが宜しいかと思います。理由は、受ける側のGMP組織レベルと応対者の能力*4に強く依存するため、一般論としてのHow toは逆効果になりかねないリスクをはらんでいるからです。

「まぁ、イケる(であろう)」といった感覚的な楽観は禁物です。監査や査察にパスすることは会社(製造所)としては目的であり結果かもしれません。が、規制としてのGMPは、基準の品質が恒常的に維持継続されているかどうかの確認を目的に規定しています。その意味で、指摘についても、自社・自身でも気づかなかった不備や不足を出荷以前に未然に防いでくれ、向上のサジェスションを与えてくれたくらいの気構えと意識が必要なんじゃないでしょうか。

ちなみに、筆者、映画「Michael/マイケル」は観ていません。悪しからず・・・。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
推しがない
筆者、正直言って、推しがありません。好奇心は旺盛なほうなので、色々なモノやコトに興味は示します。が、カネや時間を惜しむことなくかけるほどの、推しと言えるものはありません。推し活している者からすれば、「つまんねー奴」と映るでしょう。趣味についても、趣味と言えるものはありません。マジ「つまんねー奴」です。反論する気もありませんし、これから何かに推し活する気もありません。「仕事以外に何かしないのか?」と問われれば、(仕事らしい仕事もしていませんが)「何もしていない」としか答えようもなく、「ぼけーっ!?」としているのが好きだとしか言いようがありません。しょーもない奴ですが、それが私の実態なので否定もできません。だから、『ドマさんの徒然なるままに』なのです。

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*1:本話執筆は8月中なのですが、たぶん今年も残暑がキツイに違いないと思って書きました。

*2:ヒットソングメドレーの話としては、第70話夏だ、サザンだ、GMPだ!も書いていますので、捉え方としては3度目とも言えます。ちなみに、第70話は経験に基づき筆者の心情を中心に書いています。

*3:ちょっと古いですが、受ける側の視点で書かれた師匠の執筆物です。査察や監査の法規制絡みの内容ではなく、担当者としての身近な内容のため、現在でも当てはまるように思います。
・古田土真一「医薬品製造所における査察/監査の実際」、ファルマシア 2007年6月号
・古田土真一「GMP監査/査察を受けるにあたっての留意点」、製剤機械技術学会誌、第84号Vol. 22, No. 4 (2013)

*4:この応対力には、オーディターへの対応力が含まれます。オーディターと言えば聞こえは良いですが、各社・各人ピンキリで、GMP云々以前に、その人間性に疑問を感じさせる、お話しにもならない者もいます(いました)。

 

 

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