奈良から発信する“品質”のコ・コ・ロ──くすりの歴史と現場のいま【第7回】
第7回 ─ GMP適合性調査の現場から(4)
「品質を「守れ」と言う前に「守れる環境」を整えた」 ─
奈良県で薬務行政を担当している橋本です。
奈良県の製薬現場には、日々の積み重ねの中で品質文化を育てている企業が数多くあります。
1例目、2例目に引き続き、適合性調査を通じて見えてきた“人と組織の成長”をお伝えします。
<3例目>佐藤薬品工業株式会社(奈良県橿原市)
品質を「現場任せ」にせず、経営として正面から向き合う企業、佐藤薬品工業株式会社(愛称:さとやく)です。
同社は、1964年に全自動カプセル充填機を国内で初めて導入し、カプセル製剤の本格生産を開始しました。
品質文化の醸成は「正しいことを言う」だけでは前に進まないと感じます。
特に従業員数や製造品目数が多い企業では、品質に対する考え方が組織の隅々まで行き渡るまでに、相応の時間と工夫が必要です。
今回紹介する企業も、品質文化に課題を抱えていました。
1.FDA査察と回収が突き付けた現実
同社は2016年、FDA査察においてデータインテグリティ(DI)の不備を指摘され、ワーニングレターを受領しています。
HPLCデータの管理や記録の信頼性といった、品質の根幹に関わる指摘でした。
この指摘を受け、同社はLabSolutionsやLIMSを導入し、システム面での改善を進めます。
同時に、年2回のDI教育、新入社員へのALCOA+教育を継続的に実施するなど、一定の対応を重ねてきました。
しかし、2021年の無通告査察で逸脱対応や回収判断の甘さを指摘され、複数品目の回収に至ったことで、問題は再び表面化します。
当時、会社全体として生産を優先する意識が強く、製品を供給することが最優先され、消費者の目線で品質を考えることが希薄でした。また、新規の受託品目が増え、生産に追われる中で従業員に負荷がかかっている状況だったといいます。
2.「意識を変えろ」では文化は変わらない―トップダウンで示された覚悟
一方で、経営層はこの回収を、単なる失敗ではなく「会社の在り方を問われた出来事」と受け止めました。
生産重視を続ければ、いずれ顧客の信頼を失い、事業そのものが立ち行かなくなる。
同社は臨時取締役会を開催し、今後の方向性について徹底的に議論を行いました。
その後も複数回の協議を重ね、品質文化醸成に向けた取り組みをトップダウンで展開します。
同社が重視したのが、“意識改革と同時に現場負荷を本気で減らす”ことでした。
約4年間で80品目を製造中止し、品質管理部門を16名増員。
安定性モニタリングの外部委託や積極的な設備投資を進め、作業者一人ひとりの負荷を減らし、品質を「守れ」と言う前に「守れる環境」を整えました。
ほかにも、トップダウンの取り組みが積み重ねられています。
同社では、倫理綱領や行動基準に沿った行動ができているかを毎年アンケートで確認し、その結果をもとに改善活動を行っています。このアンケートには「経営者の率先垂範」の項目もあり、従業員から経営層に対する忌憚のない意見によってガバナンスを強化しています。
また、創業者の記念館を活用し、会社の原点や創業者の精神を学ぶ機会を設けています。品質や誠実さが、単なる規則ではなく「この会社が大切にしてきた価値」であることを、歴史を通じて伝えようとしています。
コロナ禍で中断していた懇親会や社員旅行も復活。いずれも会社負担で実施し、立場を越えた対話の場として、経営層と現場をつなぐ役割を果たしています。

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