今さら聞けない!微生物・滅菌入門【第2回】

3.微生物学の歴史
 カビの生えたみかん、納豆の表面のしわ、最近話題の麹(こうじ)、ブルーチーズの緑色の部分、歯垢(歯の隙間にある黄色っぽいベタベタしたもの)などは多数の微生物が集団になったもので、肉眼で見ることができます。 しかし1個1個の微生物は目で見ることはできません。 そのため、微生物という小さな生物は、長い間未知の存在でした。 17世紀に至って顕微鏡が発明され、ようやく微生物という目に見えない微小な生き物がいるということが知られるようになりました。
 
 微生物の働きについてはどうでしょう?
 
 微生物という認識こそありませんでしたが、病気がうつる、食物が腐る、果物から酒(アルコール)ができる、など微生物に起因する現象は太古の昔よりよく知られていました。 そして経験的に腐敗や病気を防ぐ方法も実践されていました。 食物を保存するために塩漬けにしたり干物にしたりすることは、昔から広く行われていました。 また真偽は定かでありませんが、昔はある家で疫病が発生すると、その患者を家に閉じ込め、外から目張りをしたうえでその家に火を放ち、すべてを焼き尽くした、ということを聞いたことがあります。 現代では考えられないような残酷な話ですが、感染の拡大阻止という点からみると非常に有効な方法であったということができます。 似たようなことは今でも行われています。 ある養鶏場で鳥インフルエンザが発生すると、その施設で飼育されている鳥はすべて殺処分になります。 このように微生物という概念がなくても、どのようにすれば安全なのか、ということは古人の経験からいろいろと実践されてきました。 しかし繰り返しますが、それらの現象が微生物という目に見えない微小な生物により引き起こされるということは、全く理解の外でした。
 
 17世紀に顕微鏡の発明により小さな生物の存在が明らかにされても、19世紀半ばまでは微生物とは「口の中には、目には見えないが小さな虫がいる」という程度の博物学的な興味の対象に過ぎなかったようです。 当時は、微生物はもとより昆虫やカエルなどの「単純な」生き物は、落ち葉や泥から自然に湧き出してくる、汗のしみ込んだシャツからはネズミが発生する、などという自然発生説が広く信じられていた時代でした。 そのような時代では、病気や腐敗という現象と微生物を結びつけるのは無理でした。 19世紀中旬にフランスのパストゥールが白鳥の首フラスコという独特の形のガラス容器を使い、生物は必ず生物から生まれてくるということを証明しました。 これは長く信じられていた自然発生説を完全に否定するもので、まさに画期的な出来事でした。 その後多くの研究者により、微生物が様々な病気の原因となることや、適切な衛生管理を行うことで手術時の感染を大幅に低減させることができる、などといったことが次第に明らかにされてきました。 さらに20世紀になり、発酵工業が全盛になり、ペニシリンなどの抗生物質も相次いで発見されました。 さらに20世紀終盤には遺伝子工学が飛躍的に発展し、微生物学のすそ野がさらに広がってきました。

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