バイオ医薬品分野における品質保証責任者の独り言【第6回】

第6回:QAが信頼されるために守るべきものとは


はじめに ― QAが最後に守るべきもの
 会議室の空気が重くなる瞬間がある。現場がこう言う。
 「理屈は分かる。でも、止めたら終わる。納期が飛ぶ。顧客にも説明できない。何とかならないか。」
 その言葉の裏にある焦りも、疲れも、責任も分かる。QAが“敵”にならないために、背景を語り、代替案を示し、痛みを代弁してきた。それでも、最後はどうしても対立する局面がある。むしろ、品質保証を名乗る以上、対立がゼロになることはない。対立がない組織は、品質リスクが消えたのではなく、議論が消えただけである。
 では、その瞬間にQAが最後に守るべきものは何か。
 結論から言えば、守るべきものは3つしかない。患者、データ、説明責任である。これだけは譲れない。これを守れないQAは、現場の味方ではなく、組織のリスクになる。

1. “嫌われないQA”≠“迎合するQA”
 誤解されがちだが、「敵にならない」ことは「何でも通す」ことではない。迎合は一瞬で空気を良くするが、後で必ず利息付きで回収される。品質問題は、起きた瞬間ではなく、起きた後に組織を壊す。回収、供給停止、行政対応、信頼失墜。現場が最も苦しむのもその時である。
 敵にならないQAとは、現場を止めないQAではない。止めるべき時に止め、進めるべき時に進めるQAである。そして、その境界線を「感覚」ではなく「判断軸」で持っているQAである。

2. QAが譲れない“一線”は、驚くほどシンプルである
 対立の局面で迷わないために、QAは最初から“一線”を言語化しておく必要がある。現場にとっても、その線が見えている方が動きやすい。曖昧なQAほど現場を疲弊させる。
QAが妥協できない一線は、基本的に次の3つである。

一線① 患者影響の可能性を「説明できない」状態
 患者に影響が出る可能性がゼロでないこと自体は珍しくない。問題は、その可能性を合理的に否定できない、あるいは評価の道筋が組めない状態である。
「影響はない“気がする”」【経験上大丈夫】は、査察官にも患者にも通用しない。説明できないなら、進めてはならない。

一線② データインテグリティ(データの信頼性)が揺らいでいる状態
 記録が欠けている、後追いで書き換えられる、原本性が担保できない、アラームが無視される。これらは製品品質以前に、品質システムの土台を崩す。
 品質は議論できる。しかし、データが信用できない組織は、議論そのものが成立しない。ここは譲ってはならない。

 

 

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