【解説】GMP適合性調査の実践的対応ガイド ~本質的な法令遵守を踏まえたGMP適合を目指して~【第9回(最終回)】
調査官は「品質文化」を見ている ― 信頼される組織であるために
これまで数回にわたり、GMP適合性調査の具体的な対応策や指摘事例について解説してきました。しかし、これらのテクニカルな側面の根底には、より本質的なテーマが存在します。それが「品質文化(クオリティカルチャー)」です。
1.不正事案の根源にあるもの
近年、業界の信頼を揺るがした多くの不正事案の第三者委員会報告書などを読むと、個々の技術的な問題以上に、組織の風土、すなわち品質文化の欠如が根本原因として指摘されています。
- 隠蔽の連鎖: 小さな逸脱を報告しづらい雰囲気。問題を指摘すると叱責される、あるいは対応してもらえない。そうした経験の積み重ねが、「見て見ぬふり」やデータの改ざん、隠蔽といった、より大きな不正へと繋がっていきます。
- 利益優先の圧力: 「安定供給」や「利益追求」が品質確保よりも優先され、問題があると分かっていても製造・出荷を止められない。
- コミュニケーションの断絶: 現場の課題が経営層に届かない。あるいは、経営層の品質に対するメッセージが現場に伝わらない。
これらは、まさに品質文化が崩壊している組織の典型的な症状です。
2.調査官が感じ取る「組織の空気」
調査官は、限られた時間の中で、文書や記録、現場の状況から、その組織が持つ「空気」=品質文化を感じ取ろうとしています。
- オープンなコミュニケーション: 質問に対して、担当者が萎縮することなく、誠実に、そしてオープンに回答できるか。問題点を指摘された際に、言い訳や隠蔽に終始するのではなく、真摯に受け止め、共に改善策を考えようとする姿勢があるか。
- 従業員の当事者意識: 現場の作業員が、自らの作業の目的や品質への影響を理解しているか。「手順書にあるから」ではなく、「患者さんのために」という意識で業務に取り組んでいるか。
- 経営層のコミットメント: 責任役員が調査に真摯に関与し、指摘事項を「自分事」として受け止め、リソースの配分を含めた改善を約束するか。
調査は、性善説と性悪説の両方の視点で行われます。誠実でオープンな対応は信頼を生み、円滑な調査に繋がります。一方で、不審な点や矛盾があれば、調査官は性悪説に立ち、より深掘りした調査を行うでしょう。
3.品質文化を醸成するために
品質文化は一朝一夕に築けるものではありません。日々の地道な活動の積み重ねです。
- 経営層の強いリーダーシップ: 品質を最優先するというメッセージを繰り返し発信し、それを自らの行動で示すこと。
- 心理的安全性の確保: 失敗やミスを報告しても罰せられない、むしろ改善の機会として歓迎される環境を作ること(Speak Up文化)。
- 「なぜ」を伝える教育訓練: 作業手順だけでなく、その背景にある科学的根拠や患者への影響を丁寧に教え、従業員の当事者意識を育むこと。
- 継続的な改善のサイクル: 自己点検やマネジメントレビューを形骸化させず、組織の弱点を自ら発見し、改善していくPDCAサイクルを回し続けること。
~おわりに~
GMP適合性調査は、企業の品質保証体制が審査される厳しい場であることは間違いありません。しかし、それは同時に、自社の現在地を客観的に評価し、改善のきっかけを得るための絶好の機会でもあります。
調査を恐れ、受動的に対応するのではなく、調査官を「品質向上のパートナー」として迎え入れ、建設的な対話を行う。その姿勢こそが、当局からの信頼を勝ち取り、ひいては患者さんから信頼される企業であり続けるための礎となるのではないでしょうか。この記事が、皆様の企業における品質文化の醸成と、より良い医薬品づくりへの一助となれば幸いです。
執筆者のGMPコンサルタント 田中が下記セミナーを担当します。
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