医薬品安定供給とサプライチェーン可視化に関する課題
1.はじめに
医療用医薬品については、2025年10月時点で、14%が限定出荷・供給停止となっており、供給不安が継続的に生じている。直接的な原因は原材料調達トラブル、品質トラブル、製造トラブル、需要の増加等であるが、背景には薬価制度を含む、様々な構造的課題が複雑に絡み合っている。厚生労働省は、有識者検討会や厚生科学審議会(2025年8月には医療用医薬品迅速・安定供給部会が新設)を設置し、産業政策、薬価、薬事、流通等の様々な角度から、これらの課題の整理と解決策の提示を行っているところである。本稿では2019年に発生した抗菌薬セファゾリンの供給停止の問題を取り上げ、その際に課題となった医薬品の供給リスクにつき「サプライチェーンの可視化」という観点から考察したい。なお、本稿では課題の指摘に主眼を置き、サプライチェーン可視化システムの活用を含む具体的な解決手法については別稿に譲る。
2.セファゾリンの供給停止問題
「サプライチェーンが見えづらい」という課題が指摘され始めたきっかけは、2019年に発生した抗菌薬セファゾリンの供給停止の問題である。この供給停止は、中国の原料製造所での供給停止とイタリアの原薬製造所での異物混入が重なったことによる。この原料製造所は、セファゾリンの原料であるテトラゾール酢酸を世界で唯一生産していた。供給再開まで約8カ月かかり、手術の延期も発生した。医療上必要不可欠な抗菌薬でありながら、その供給リスクが十分に管理されていなかったのではないか、と指摘されているところである。
背景として、原薬製造までの過程を海外に依存する点や、その過程が複数の国にまたがるためリスクに晒されやすい点が挙げられるが、そもそも複雑なサプライチェーンを適切に管理できていたのか、という点も指摘されている。セファゾリンの供給停止問題の後、製造販売業者220社を対象に、カテゴリB及びCの安定確保医薬品(2025年11月に供給確保医薬品に制度変更)につきサプライチェーンに関するアンケート調査が実施された(令和4年度厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課委託事業「医薬品・医療機器のサプライチェーン実態把握のための調査事業」)。この調査結果の中では、供給リスクに関する課題として、(1)特定国・サプライヤへの依存、(2)変動するコスト等の影響、(3)日本に特有の規制対応、(4)サプライチェーン管理の複雑化、(5)供給情報の取得、(6)安定供給への投資不足の6つが挙げられたが、「(4)サプライチェーン管理の複雑化」がまさにこの指摘である。
3.サプライチェーン管理の複雑化について
この調査結果では、サプライチェーン管理の複雑化の課題は「取り扱う品目の増加や委託先の増加により、管理上の業務量や取り扱う情報量が増加する」及び「必要となる管理リソースが増加する一方、人材を含め、対応に十分な体制が構築できていない」の二点と具体化されている。
多くの製薬企業では、従前に比べ取扱品目は大幅に増え、また自社生産から製造委託への切り替えが進んでいる。採算性の観点から原料・原薬の調達先は海外への切り替えが進み、サプライチェーンは急激にグローバル化し、リスクに晒されている。その中で、サプライチェーンの管理業務は複雑かつ難易度の高いものになっており、取り扱う情報量も非常に増えている。サプライチェーンを適切に把握し、管理するためには、従前よりも多くの労力や管理体制強化に向けた投資が必要になっている。
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