化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第19回】

混ぜ方ひとつでスキンケア&洗浄力アップ! 液晶乳化


 転相乳化にD相乳化・・・。混ぜ方ひとつで液滴を細かく、安定化する○○乳化シリーズも第3弾!今回は「液晶乳化」について紹介します。

 「液晶」というと、なんだか化粧品っぽくないなあ、テレビとかコンピュータのモニターみたいだなーなんて思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、液晶を使った化粧品、けっこうたくさんあるのです。そもそも「液晶」というのはモニターの種類ではなく、いわゆる物質の状態を示す言葉なのでした。

 物質には固体・液体・気体の三態がある、ということは皆さんよくご存じの通りですが、実は固体と液体の間には中間と言える状態があり、それが「液晶」なのです。液晶というのは「固体の、特に結晶のように分子が規則的に並びながら、一方で液体のような流動性を示すもの」をいいます。分子が並んでいると、その配列の方向によって物理的なふるまいが異なるころになり、この特性が異方性と呼ばれ、液晶ならではの機能につながるのでした。 

 例えば1968年に発表された液晶ディスプレイは、2枚の透明電極付きガラス基板で液晶層を挟んだ構造となっています[1]。透明電極間に電圧をかけない時は、液晶分子はガラス面と平行に並んでいますが、電圧をかけるとガラス面と垂直な方向へ液晶分子の向きが変わります。液晶分子はその向きによって光学的な性質が異なるので、液晶分子の動きと2枚の偏光板の偏光方向を組み合わせることで、光の透過量をコントロールすることが出来ます。このような液晶の性質を利用して画像を表示するのが液晶ディスプレイです。 

 この、「とろとろと流れる流体中で分子が並ぶ」液晶をさまざまな化粧品に応用したのが花王(株)の鈴木氏でした[2, 3]。彼らは界面活性剤/グリセリン/水からなる液晶中に、かくはん下で油相を直接添 加し、油相を分散・保持させたのち、水で希釈して調製したO/Wエマルションは、見た目は真っ白いごくふつーな乳化物なのですが、それぞれの乳化粒子が「ラメラ構造」と呼ばれる脂質二分子膜によって何重にも包まれた「マルチラメラエマルション」を形成しているのでした。このエマルションを偏光顕微鏡で観察すると「マルテーゼクロス」と呼ばれる十字架状のパターンがあちらこちらに見られてまるで花畑のようですし、凍結割断して電子顕微鏡で観察すると玉ねぎのような脂質二分子膜の層が見えたりして、ちょっときれいだったりするのです。

 このマルチラメラエマルション、何重もの膜によって包まれているので、細かい油滴が長期間安定に保たれることはこれまでに紹介した転相乳化・D相乳化と同じなのですが、それ以外にも幾つかの機能を示すことが知られています。まず、大切なのが「スキンケア機能」です。皮膚にわざと有機溶媒のアセトン/エーテル混合物を接触させた乾燥荒れ肌にマルチラメラエマルションを塗布すると、たった1回で皮膚の水分保持能が健常肌のレベルまで回復したのです。鈴木氏が調製したエマルションには「人工セラミド」という皮膚の最表面の角層を保湿し、有害な物質の侵入や水分の蒸散を防ぐバリア機能を高める脂質が10重量%配合されているのですが、この成分がラメラ構造を構築することによって効率的に角層に浸透してバリア機能を高めていると言うのです。

 

 

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