化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第18回】

 

保湿成分が乳化を助ける! D相乳化


 前回は、混ぜ方ひとつでナノエマルションができる「転相乳化」を紹介しました。ポーラ化成工業(株)の鷺谷氏によってこの論文を発表された1981年の当時、私はまだ中学生。自分が化粧品業界で仕事をすることになるとは夢にも思っていなかったので、残念ながら、その状況に接することはできませんでしたが、おそらくかなりの衝撃が走ったのではないかと思われます。なにしろ、新しい成分や高価な装置を使うことなく、細かい油滴が水の中に分散した安定なナノエマルションを作ることが可能になったのです! その後、〇〇乳化と呼ばれる乳化技術が相次いで開発され、実用化されることになりました。

 今回は前回に引き続いて、鷺谷氏が開発されたD相乳化をご紹介します。転相乳化のくだりで、油相の中に水滴が分散したW/O型エマルションに水相を添加して連続相が水相のO/W型エマルションに相転移させると細かい油滴のナノエマルションができいるのは、界面活性剤が層状に配列したラメラ液晶が生成し、その中に水と油が取り込まれたD相と呼ばれる状態ができることがポイントだ、ということをお話ししました。油と界面活性剤相の問の界面張力は油と水との界面張力よりずっと低いため、細かいナノサイズの油滴を生成することが可能となるのです。しかし、このD相をつくるためには、界面活性剤と油相の組み合わせを最適化する必要があり、どんな化粧品でもこの技を使うことができるということではありませんでした。

 そこで、鷺谷氏がより幅広い条件下でD相を出現させ、細かい油滴の調製を可能にするために提案したのがD相乳化でした[1,2]。この方法は転相乳化よりも、少し手が込んでいます。まず、界面活性剤をアルカンジオール、グリセリン、ジグリセリン等のポリオールの水溶液に溶かし、油相を加えてD相の中に油滴が分散したO/D型ゲル状エマルションを調製します(図1,2)。次に、このゲル状エマルションに水を添加するとナノエマルションができるのです。

 鷺谷氏らはポリオキシエチレン系のノニオン界面活性剤と1,3ブタンジオールというポリオールを使って、流動パラフィン、大豆油、綿花油、ひまわり油等を数百nmの細かい油滴として分散することに成功しました。彼らの論文によると、転相乳化法によって作られたエマルションの粒子径は乳化剤の親水性親油性バランスによって大きく変わるのですが、D相乳化の場合は、界面活性剤相、すなわちD相中に油を分散していくだけのため、粒子径に大きな変化は見られないとされています。
 

 

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