医薬品開発における非臨床試験から一言【第21回】

2021/09/10 非臨床(GLP)

今回は、代謝プロファイル作成の過程を解説。薬物動態試験では代謝物を矢印で繋ぐ推定代謝経路の研究だけではないことを紹介する。

代謝プロファイルのポイント

代謝物の安全性評価の課題について、代謝プロファイル作成の過程を解説します。薬物動態試験、いわゆるADMEの中で、「M」に相当する代謝物(Metabolite)の研究は、代謝過程、安全性、量的・速度的な現象の把握と評価、そして薬物相互作用の観点での判断、さらにヒトと動物の種差、人種差の問題など、多くのポイントがあり、発見された代謝物を矢印で繋いでいく推定代謝経路だけではなく、様々な課題に沿って代謝の重要性を考えます。

まず、代謝物の呼び名と意味を示します。

  • 代謝物 (Metabolite):未変化体(親化合物)から第1相反応又は第2相反応の代謝経路により生成される化合物
  • 抱合代謝物 (Conjugate):薬物等の外来物質(異物)や体内由来の一部物質(ホルモン、胆汁酸、ビリルビン等)に他の親水性分子(硫酸、グルクロン酸、グルタチオン等)が付加された代謝物
  • 活性代謝物 (Pharmacologically active metabolite):未変化体に比較して、標的部位に対する効果が同質の代謝物
  • 主要代謝物 (Major metabolite):主要代謝物とは一般的な用語になります。同義ではないですが、概念的にICH M3(R2)で「特徴づける必要がある代謝物」が注目され、臨床での曝露量が投与薬物に関連する総ての物質の曝露量の10%を超える代謝物と定義
  • 反応性代謝物 (Reactive metabolite):薬物の代謝過程で生成し反応性を持つ不安定な中間代謝物
  • ヒト特異的代謝物 (Unique human metabolite):ヒトでのみ生成される代謝物
  • 不均衡性代謝物 (Disproportionate drug metabolites):ヒト血漿中代謝物で定常状態の曝露が毒性試験で確保されていない代謝物(FDAガイダンス)

代謝プロファイルは臨床の情報も含めて完璧を目指すと市販後の情報提供がゴールになります。ただし、医薬品開発の過程においては、臨床への情報提供として重要であり、その前には、毒性試験を始める時に代謝物の曝露評価は大切になります。そのため、代謝の課題は開発の過程を随分と遡り、まず取り組むべき課題の1つと位置付けられます。

非臨床安全性試験の実施についてのICHガイダンス(ICH-M3(R2))においても、臨床試験の前に動物およびヒトの薬物代謝に関するin vitro試験が行われるべきとされています。さらに、第Ⅲ相臨床試験の前までに、ヒトの代謝物で、臨床での曝露量が総曝露量の10%を超え、毒性試験の最大曝露量よりも明らかに高い代謝物は、非臨床試験で「特徴づける必要がある代謝物」と定義されています。

代謝物の研究は、このハードルを意識しつつ、創薬の早期から取り組みます。まずは探索段階として代謝安定性や活性代謝物のスクリーニングを行い、代謝物毒性の懸念の少ない化合物を選択します。代謝安定性は、ヒトミクロゾームを用いた代謝分解の試験で未変化体の減少を確認することで、臨床での消失半減期が適度な化合物を目指します。また、未変化体の活性あるいは細胞毒性を指標にするなどの研究から活性代謝物を見出します。

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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