【解説】GMP適合性調査の実践的対応ガイド ~本質的な法令遵守を踏まえたGMP適合を目指して~【第6回】

最近の指摘事項の傾向と対策(その1)― 品質システム・DI・逸脱管理

近年のGMP適合性調査では、単発の事象だけでなく、その背景にある管理システム全体が問われる傾向が強まっています。特に「品質システム」「データインテグリティ」「逸脱管理」は、調査で最も重点的に確認され、中程度以上の指摘に繋がりやすい最重要項目です。

1.品質システム(PQS):形骸化していないか
改正GMP省令で導入された医薬品品質システム(PQS)は、調査で必ず確認される項目です。

  • 典型的な指摘事例:
    • 品質方針・目標が未策定、または従業員に周知されていない。
    • マネジメントレビューが実施されていない、または責任役員が関与した記録がない。
    • リソース不足(人員、設備等)が示唆されているにも関わらず、マネジメントレビューで議論され、具体的な改善に繋がっていない。
  • 対策のポイント: PQSは、単に手順書を整備するだけでは不十分です。適切な品質目標(KPIなど)を設定し、その進捗も含めてマネジメントレビューで議論し、経営陣からのアウトプットと現場からの現場の状況それを踏まえた改善が噛み合ったPDCAサイクルが、継続的に回っていることを記録でも適切に示せるようにしておく必要があります。

2.データインテグリティ(DI):信頼性の根幹
データの信頼性はGMPの根幹であり、DIに関する不備は、意図的か否かにかかわらず、組織的な不正や隠蔽を疑われる重大な指摘に繋がります。

  • 典型的な指摘事例:
    • 試験の一次記録(メモなど)を公式記録に転記した後、一次記録を廃棄している。
    • 製造記録や試験記録の日付を遡って記載している(バックデート)。
    • 作業と同時に記録せず、後から記憶に基づいてまとめて記録している。
    • 共有PCで個人のID・パスワードを使用せず、誰が操作したか追跡できない。
    • 誤記などの理由のみで不適切な修正を実施している。
  • 対策のポイント: DIの基本原則である「ALCOA+」を全従業員が理解し、実践すること(ガバナンス)が必要不可欠です。特に、記録の同時性、原本性、帰属性が担保されるような仕組みを構築し、それを徹底するための教育訓練と、責任者による日常的な管理監督が求められます。

3.逸脱管理:改善に繋げる仕組み
逸脱は必ず発生するという前提に立ち、それをいかに迅速に検知し、適切に評価・処理し、再発防止に繋げられるかが問われます。

  • 典型的な指摘事例:
    • 承認事項への影響があり得る逸脱を、製造販売業者へ速やかに報告していない。
    • 根本原因の究明が不十分なまま、安易に「ヒューマンエラー」などと結論付けている。
    • CAPA(是正措置・予防措置)が計画通りに実施されていない、またはその有効性評価が行われていない。
    • 逸脱処理の遅延が常態化している(リソース不足の可能性)。
  • 対策のポイント: 逸脱を「問題」として隠すのではなく、「改善の機会」として捉える品質文化の醸成が最も重要です。また、逸脱の影響評価や原因究明を科学的・客観的に行うための手順を確立し、特に重大な逸脱は、速やかに製造販売業者とのコミュニケーションが行われることや、原因究明・CAPAの進捗管理と有効性評価を確実に実施する体制を構築する必要があります。

これらのシステムは相互に関連しており、一つの不備が他のシステムの問題を露呈させることも少なくありません。自社の管理体制を俯瞰的に見直し、弱点を補強しておくことが重要です。


執筆者のGMPコンサルタント 田中が下記セミナーを担当します。
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