ドマさんの徒然なるままに【第84話】 お宅はどうですか?/Part 1(情報編)

第84話:お宅はどうですか?/Part 1(情報編)
はじめに
のっけから何ですが、本話、筆者の師匠である古田土真一先生と話をしていた際に、先生が『最近の製薬会社さん、GMPはキチンと遵守し、そのレベルも向上したようだけど、質問などを受けた際に「なんで?」と思うような素朴な疑問を抱くことが結構あるんだよねー!? 市販製品と治験薬の二刀流QAをやってきた私が特殊だったので、そんなことから感じる違和感なのかなー?』とぼやいていた。
ぼやきの背景には、大方の会社さんのGMP関連組織の品質保証部門(QA)の形態が、市販製品GMP(GQP)の組織(さらには、製造販売業としてのCorporate QA and/or 製造業者(製造所)としてのSite QAとがあり)と治験薬GMPの組織(所謂、治験薬QA)とが別々になっていることがあるようである。
組織として別々か一緒かに悩み相談なされる方が少なからず居られますが、一言で言えば、組織がどうかは特に問題ありません。この日本においては、市販製品であれば、GMP省令とGQP省令が遵守され、それに基づいて製造・販売がなされていれば問題ありません。一方で、開発段階にある治験薬については、GCP省令に紐づく治験薬GMP基準を遵守し、それに基づいて製造・交付されていれば問題ありません。
《注》あくまで日本国内向け製品の製造・販売、日本国内で実施する治験としての話です。
大事なことは組織の形態ではなく、それぞれの品質を保証しなければいけないという意識と適切な対応が図られているかどうか、もし万が一不適切な状況や状態があれば、ヒトの生命に関わるリスクがあり、会社の存続に多大なる影響が及ぶということです。むしろ、その意味においては、組織形態よりも、それぞれの業務を担当している者の意識と資質にかかっていると言えます*1。
しかしながら、GMP組織としての実際の運用においては、「これって、もったいないんじゃね?」とか「なんでそんな状態なの?」といったことを感じさせる会社さんが多いということからのぼやきだったようです。
そんなこともあって、本話、「お宅にはこんな人いませんか?」シリーズ*2が個人を対象とした話題であったのに対し、GMP組織や会社として「こんな組織や会社ってあるよなー!?」ということで先生と共著の形で、Part 1(情報編)、Part 2(治験薬編)、Part 3(曖昧編)の3回に亘って書いてみました。
ちなみに、このシリーズ、自身(自製造所、自社)では気づきにくい点についての留意点とも言える内容です。別にGMP違反となることではありません。が、実運用においては盲点になっている可能性があるかもしれない点について、念のためにお伝えしておきたいという老婆心で書いています。別の見方をすると、先生の市販製品と治験薬の二刀流QAがどんな形で進化していったかを窺い知ることができるシロモノでもあります。その意味では、市販製品GMP(GQP)および治験薬GMPを問わず、関係者はご一読ください。
【素朴な疑問】
お宅の市販製品の製造所(工場)と治験薬GMPの両組織での情報交換、所謂コミュニケーションは大丈夫ですか? Corporate QAと治験薬QAが、品質保証部内のグループとして分かれているといった場合でも同じです。
【懸念事項】
通常で言えば、市販製品の製造所は製造業許可を取得しているため、行政による査察は必ず受けているはずです。新規有効成分としての新薬や生物学的製剤であれば、PMDAの査察も経験しているはずです。
製造販売業者のCorporate QAであれば、GQP査察は勿論のこと、海外認定製造所に対するPMDA査察にも同席しているはずです。
受託製造業者さんであれば、委託先からの監査はかなり多いはずです。
一方で、海外からの導入導出や海外との共同開発といった輸入や輸出が多い会社さんであれば、治験薬GMP組織として相手さんから監査を受けることが多いと思います。
それぞれの組織で発生した査察や監査の報告会といったものは開催されていますか?
【個人的提案】
率直に申し上げますが、筆者の知る限り、この手の報告会が頻繁に開催されている会社さんは極めて少ないように思います。市販製品と治験薬とではそのGMPが違うといった勝手な思い込みも含めて、区別すること自体に意味がありません。むしろ、国内と海外との査察や監査の着目点といったことを知る機会を社内展開できる機会を自ら潰していると言ったら失礼でしょうか。
【お節介な本気コメント】
ハッキリ言います。その辺のセミナー受講をするよりも効果的かつ実務的、さらに実践的な内容を知ることができます。セミナー講師を務める筆者が断言しますので、間違いありません。
【素朴な疑問】
例えば、苦情処理や回収処理の手順書(SOP)において、市販製品であれば、その連絡元になる営業部門、治験薬であれば、臨床開発部門との具体的なヤリトリ手順は記述されていますか?
【懸念事項】
苦情も回収も事の発端となる情報源は営業部門か臨床開発部門のはずです。製造所のQA部門・治験薬QA部門は、あくまでこれら各部門からの情報を基に調査、回収等を行うはずです。当たり前ですが、両部門の手順が整合していなければ、迅速かつ円滑に対応できないんじゃないでしょうか?
【個人的提案】
営業部門とCorporate QA & Site QAおよび臨床開発部門と治験薬QAのそれぞれの担当窓口となる者の氏名と電話番号については決めていると思いますが、別添でも良いのでSOPには明記しておくべきでしょう。またそれ以前に、それぞれの部門の該当するSOP間に齟齬が無いようにチェックしておくべきでしょう。できれば、それらSOPは、連絡元の該当するSOPと整合させるために、お互いで照査&承認しておくことが望ましいと思います。
【お節介な本気コメント】
ちょっと嫌みなコメントをお許しいただければ、規制要件としてSOPは作成してある。が、その手順は必ずしもお互いのチェックが実施されている訳ではなく、場合によっては整合していない、なんてことはありませんか?
細かいことを言えば、最初のSOP制定時にはそれなりに決めていたはずのものが、数年ごとの定期SOP見直し時には形骸化し、担当窓口者が変更されていることさえ気づかない、なんてことになりますよ。品質苦情や回収が少ない会社さんほど陥り易いので、お気をつけください。
ちなみに、これが委受託関係であれば、Quality Agreementで規定しておくべきものですが、これまた形式的内容に陥っていませんか? 「●●さんをお願いできますか?」なんて電話したら、「彼は退職しました。」なんて返事が返ってくることがあったような・・・。
【素朴な疑問】
他部門(他部署)とのコミュニケーション以前に、自部署としてのQA部門内におけるコミュニケーションは、いかがでしょうか? キチンとして問題など無いと言い切れる会社さんを見たことが無いと言ったら失礼でしょうか。
【懸念事項】
良く言えば、分担作業。悪く言えば、それぞれが勝手にやっている。そんな感じになっていませんか? それを上手にマネジするのが管理職の役目のはずなんですが、現実にはそんな立派な管理職は少ないと言わざるを得ません。
【個人的提案】
QAには、法規制としての要件を知っているだけでなく、要件を踏まえた上での現実の作業との整合を見る目が必要になります。そんなことが背景にあるのかどうかは計りかねますが、当該部署の在籍が長く、自部署の過去の事実(良く言えば歴史)を知っているといった、年功序列的な考え方による者が管理職に就くことが多いように思えます。それ自体がダメとは言いませんが、QA部門内でのコミュニケーション不足を補うためには、ましてGMP・GDPが激しく進化している昨今においては、医薬品品質の本質を見据え、品質が如何に会社の業績に影響するかを認識しているマネジメントが求められているように思えます。
【お節介な本気コメント】
貴社に適材となる人材がいるかどうかは存じませんが、肩書付けのための無関係部署からの管理職登用の異動は避けるべきでしょうね。部門内のコミュニケーションまで気づかないかもしれませんし、気づいたとしても手が回らないように思います。
また先述の在籍の長い管理職ですが、自部署としての実情や実績を良く知っているはずなのですが、自身が講師として自部署に展開し教育するという方をあまり存じません(理屈一辺倒の方は結構います)。後述の「Knowledge Managementに疑問を感じさせる会社さん」の中に記した“抱え込みたがる者”の部類なんですかね。
もし貴方が管理職でなくとも、何らかコミュニケーションアップの手段を持っているのであれば、それを上司に伝え進めてみては? あなたの具申も無視するような管理職であれば、もはや手の施しようも無い状態なんじゃないんですかね・・・。
【素朴な疑問】
「第62話:有意義なセミナー受講の仕方」の中の「その12:受講後、できるだけ早く社内報告(できれば自身が講師としての社内セミナー)を開催しましょう。」の項にも記しましたが、実際にはどうなのでしょうか?
【懸念事項】
自腹を切っての受講ならばともかくとして、会社費用による出張扱いであれば、業務の一環としての受講のはずです。出張報告書は、必ずしも自身の理解度に基づくものではなく、場合によっては感想的なものあります(正直、それが多い)。
【個人的提案】
自身の理解度チェックの意味でも、受講者自身が講師として社内での報告セミナーを開催して貰いたいと願います。
【お節介な本気コメント】
率直に申し上げますが、「自分としては理解している」という状態と「誰かに説明できる」という状態とでは、各段の差があります。社内セミナーでの報告は、情報の展開は勿論のこと、質問を受ければ、自身の理解度の甘さや自身では気づかなかった別の観点での気づきなども浮かび上がり、自身の向上にも繋がります(社内だと遠慮が無いせいか、キツイ質問もありますが、とんでもないアホな質問も出ます)。情報の展開と自身の向上、これらが一番大事なことなのですが、お気づきですか? 外部セミナーを受講したというだけでは、単なる教育訓練記録の数増やしと思われても仕方なしと言えます。
【素朴な疑問】
GMPの社内自主セミナーをやっていますか? 勤務時間内での教育訓練ではありません。会社によっては 勤務時間内での開催が認められているかもしれませんが、あくまで有志による自主勉強としてのセミナーです。
【懸念事項】
技術研究所であれば、それが探索であれ開発であれ、原薬・製剤・分析を問わず、ほぼ行っているものと思います。まして探索関係であれば、学術雑誌(ジャーナル等)に掲載された新規研究発表を如何に早く取り入れるかも新薬開発に関係するため、少なくとも週1ペースで開催しているものと推察します。自主セミナーについては、その目的や主旨が異なるものもあり、場合によっては複数のセミナーが開催されたり、参加している者もいるかと思います。一方で、率直に申し上げて、品質保証関係(QA)として自主セミナーを開催している会社さんをあまり見かけません。
【個人的提案】
一昔前は、工場の方が「QCサークル」とか称して勉強会を開催していたと思います。最近の現場は存じ上げませんが、少なくともQAとしてのGMP勉強会をあまり見かけません。コスパとしてどうかは、参加者の意欲に依存するんじゃないでしょうか。他者との話の中では、自分とは違うGMP事項の解釈があることの気づきがあるかもしれません。自分の解釈の間違いの気づきがあるかもしれません。
【お節介な本気コメント】
率直に申し上げますと、このGMP Platformにあるニューストピックス、そんな自主セミナー開催の元ネタの紹介の意味合いも込めて書いています。自分一人では一つしか読めない(読まない)ガイドラインも、セミナー参加している他者が紹介して説明してくれれば二つになるという考えだってあるんじゃないでしょうか。せっかく「第75話:有意義なGMPPトピックスの読み方」まで書いたのに役立てて貰えてないんだろーなー!? 泣
先の各項で述べたコミュニケーション不足を発展させた状況とも言えますが、貴社では、以下のような点、どうなっていますか? ちなみに、技術情報・研究情報は別格なので、敢えて入れていません。
【懸念事項】
Knowledge Managementを大げさに考えすぎのように思います。大会社さんで、(技術情報・研究情報以外の)各種の情報についてもデータベース化し、DXできるようであれば、それはそれで良いことと思います。が、自社内の過去の実績や情報を社員として活用できるようにすることが本来の目的であるならば、上記疑問点に挙げた3点に対する職員の意識は前向きであるということが前提なんじゃないでしょうか。そうでなければ、どんなに量や利便性を向上させても、職員自身の意欲や向学心にかかっている状況から脱却できず、職員の向上は期待できないように思えます。
【個人的提案】
セミナー講師を務めさせていただいておりますが、数年後に同じ会社の同じ部署からの受講者がいることが結構あります*3。セミナー屋さんの立場であれば嬉しい限りでしょうし、講師の立場としてもある意味で嬉しいのですが、正直、「この会社さん、前受講者からの情報はどうなっているんだ?」という疑問を感じるのです。それぞれに理由はあるのでしょうが、もし前受講者が受講後に受講報告を兼ねて社内セミナーでも開催して拡散していただく。資料は自由に閲覧できるようにしておく。ハンドアウト資料であれば、受講者部署の図書キャピネットに保管、デジタル資料であれば、どこかの共有フォルダに設置、といった具合です。
【お節介な本気コメント】
失礼を承知でハッキリ申し上げます。どんなに情報のデータベース化やDX化に力を入れても、ガイドラインひとつ読まない奴や自社品質ポリシーも理解していない奴ばかりであれば、ダメ組織からの脱却は苦難の道ですよ。まずは、「品質をマトモに考えることのできる人間」を育てましょう。
それを踏まえて、Knowledge Managementを言い出す前に、先ずはできることからやる。中には、“抱え込みたがる者”*4がいるのも承知していますが、そんなdisturber(妨害者)に目を向けていたら進歩なんかありませんよ!
Part 1(情報編)のおわりに
2025年9月時点、コンピュータやインターネットは当たり前、スマホにあっては生活に欠かすことのできない必需品となってしまった。AIも日常的に使える(使われているが正しいのか?)状況となった。そんなこともあってか、“情報の量”は異常とも言えるほど多くなった。
ただその一方で、SNSを筆頭に真偽が定かではない情報、敢えて言うならば“情報の質”には疑問を感じさせるものも多くなった。AIは人間の足元にも及ばない量をこなしてくれるが、質については、あくまで本人が判定せざるを得ない(少なくとも本人が判定したほうがベター)のではないか?
GMPの世界でも同じことが言えるのではないか。一昔前と違って、各国のガイドライン等の規制情報もネットで閲覧・入手できる。講習会・研修会に加え、山ほどのオープンセミナーが開催されている。意欲があり、費用が捻出できれば、好きなだけ勉強できる。GMPという概念は浸透したが、その分だけ品質も向上(正確には安定か?)したのだろうか? 規制の強化に伴って、品質に対する意識も向上したのだろうか? 規制強化は、科学の進歩に伴う場合を除いては、良からぬ事をしでかす者に対する性悪説の強化のように思えてならない。
先述のように、“情報の量”は飛躍的に向上したが、それに見合っての“情報の質”が追い付いていないんじゃないだろうか。量は機械的に対応できるが、質についてはあくまで人間にかかっており、むしろ“人間の質”に依存しているのではないか。“人間の質”、言い換えれば、“当人の意識”だと考える。これから品質の向上を図りたいのであれば、まずは“人間の質(意識)”を高めては、いかがであろうか。
来月の第85話では、Part 2(治験薬編)をお伝えします。治験薬編としてはいますが、内容としては、本話で紹介した市販製品GMP(GQP)と治験薬GMPとの差異がどんな部分に現れるかを示しています。そんなことから、是非とも市販製品GMP(GQP)に携わる方も勉強としてお読みいただければ幸甚です。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
予備校の夏期講習
前話の徒然後記「0点」の続きである。続きと言っても1年後の高校3年の話である。前話で述べたが、高校2年の夏休みは自分でも自堕落と思えた過ごし方であった。そんなこともあって。「高校3年の夏休みは大学受験にとって大事な時間、自堕落な生活だけは避けよう。昨年の繰り返しがあってはお終いだ!」と自覚し、隣町にある予備校の夏期講習に通うことに。期間は、7月最終週から8月の第3週までの1ヵ月間。筆者としては、その教わる内容はどうでもよく、朝早起きしてマトモな生活をキープしておくことが目的。
夏期講習の初日目、たまたまクラスメート2名も受講していたことが分かり、ちょっと気が楽に。元々の目的がいい加減であったため、予備校の授業には全く気が入らない。男子校(筆者の県立高校は男女別学)に通う身としては、普段は教室に居るはずのない女子が気になって仕方がない。理系か文系かで授業の選択も異なるのであるが、何日か通うと、同じ選択で出席している女子2名がいることに気づく。しかも結構可愛い。向こうも「この人、同じ選択だわ。」と気づきだしている。ある時、勇気を奮って声をかける(そういうのは勇気とは言わないってか!?)。元々は内気なほうであるが、なぜかナンパは上手い(そういうのを俗世間ではスケベと言うってか、すいません)。結構仲良くなる。
夏期講習が終わっても、まだお互い夏休み期間。クラスメート2名の我々男子3名で、その女子2名をデートに誘う。予備校の夏期講習での授業は全く記憶に残っていないが、あの1日のデートは記憶に残っている。そもそもいい加減な目的の夏期講習であったものの、たった1日ではあったが、“17歳の青春”と言える良い思い出にはなった。
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*1:関連内容については、「第83話:GMP界隈」を参照のこと。
*2:「お宅にはこんな人いませんか?」シリーズ
第29話:お宅にはこんな人いませんか?/QA編
第35話:お宅にはこんな人いませんか?/製造部門編
第39話:お宅にはこんな人いませんか?/QC編
第42話:お宅にはこんな人いませんか?/責任者・管理者編
第43話:お宅にはこんな人いませんか?/上司・管理職編
第73話:宅にはこんな人いませんか?/こう言っては何ですが、
第78話:お宅にはこんな人いませんか?/あんたのことだよ!
*3:どこのセミナー屋さんにおいても、「受講者名簿(個人情報保護法に基づき、TEL・メルアドといった個人連絡先は無く、会社と部署名のみ)」はいただいております。
*4:この手の情報を抱え込みたがる者、能力の乏しい管理職に多い。要は、自分だけが知っているということで、部下を含む下手の者に対して自分を優位に見せたがる傾向にあると言える。筆者の経験から、この手の“なんでやねん”といった者、どこの会社にも少なからずいました
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