再生医療等製品の品質保証についての雑感【第23回】

2021/03/12 再生医療

水谷 学

はじめに
 ヒト細胞加工製品の安定供給においては、より均一な品質の細胞原料を恒常的に獲得できることが重要です。製品開発において先行した自己由来細胞加工製品は、患者自身から採取した組織を用いるため、現状では細胞原料のストック(細胞・組織バンク)の考慮は必要ありません。また、最終製品の品質も細胞原料の個体差によるばらつきを含むので高度に制御することはできません。これに対し、同種由来細胞加工製品の開発では、ドナー由来細胞を安定的に確保するため、およびロット間の品質変化を一定の基準下で制御するため、細胞ストックの考慮が非常に重要となると考えます。さらにES細胞やiPS細胞は、人の手で樹立され、無限に増殖可能であるため、外部からの供給による安定確保ではなく、機関内でマスターセルバンク化し、製品のライフサイクルを通じて均一な細胞原料を確保することができると考えます。本稿では、細胞原料の安定確保について雑感を述べます。


● 同種由来細胞原料の安定性確保の確保について
 筆者は、同種由来細胞加工製品を開発する製造機関が、細胞提供機関(採取機関)より直接ボランティアドナーの採取細胞・組織を確保することは、あまり効率的ではないと考えます。このとき課題となるのは細胞自体の品質についてであり、具体的には、同じ品質の(均一な)細胞原料が入手できるか否かであると認識します。確保できる細胞原料の品質を均一化するためは、直接的な入手ではなく、例えば特定の原料特性を選択可能な、多くの細胞ストックを保有する仲介機関があった方が有利であると考えます。
 ドナー由来細胞原料にはドナーごとの個体差(品質の違い)が生じますが、これを生原基(生物由来原料基準)におけるドナーの選択基準・適格性確認の範疇のみで、網羅的に評価することは難しいです。そのため、入手した細胞原料を用いて製造した場合、製造毎の品質のばらつきが許容できないリスクとなる可能性があると認識できます。このとき製造が、品質の安定化のために培地等にウシ血清等の生物由来原料を用いないなど、厳密な製造条件を課す場合では、原料特性の適合しないボランティアドナー細胞が増殖しないなどの課題が生じることが否定できません。さりとて培養工程にウシ血清等を用いれば、製品がヘテロになることを許容することとなり、これも品質設計上好ましいことではありません。同種由来細胞原料の確保は、薬事で一般的な細胞バンクの定義とは異なり、臨床の組織バンクと近似である細胞ストックであり、限られた数量の範囲でしか同じものは確保できません。そのため細胞原料の確保は、製品設計のライフサイクルにおいて最も大きな課題の1つとなるのだと認識します。

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

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