再生医療等製品の品質保証についての雑感【第87回】

第87回:細胞製造の品質マネジメントシステム (17) 
~ 逸脱をアクティブに活用できる是正・予防(CAPA)システムの構築 (3) ~


はじめ
 前回の最後でプロセス内の細胞は一貫性の無い突発的な逸脱(外れ値)があり、細胞の「制御困難性」のため原因を究明することが困難というお話しをしました。一方で、外れ値を「外れ値」のまま放置し続けるのもよろしくないと考えます。そこで今回は、細胞加工における外れ値解析の考え方について雑感を述べさせていただこうと存じます。


外れ値と異常値の定義
 外れ値解析する上で、用語に明確な定義が無いと混乱しますので、ここで簡単に筆者らが用いる用語の定義を共有します。ここで用いる用語や対応する英語については、分野や組織間で異なると認識しますので、あくまでも説明を行う上での便宜上とご理解ください。
 先ず、外れ値の意味は「他のデータと比べて極端に離れた値」となりますが、ここで異常値とどのように異なるのかという疑問が生じると認識しますが、異常値の意味も同じです。ここで、両者の違いとして、異常値は「原因が判明している、あるいは予測(対処)が可能な状態における値の乖離」であるのに対し、外れ値は「原因が不明である、あるいは原因の予測(対処)が困難な状態における値の乖離」と定義しています。
 一般的な製造におけるCAPAの活動では、外れ値の放置は許容されないであろうと認識します。初発において「外れ値」として検出された逸脱については、適切に故障解析を実施、原因を究明することで、プロセスとの因果関係がある「異常値」に昇華させることで、再発防止の管理が実施されることが求められます。


細胞加工で生じる異常の一歩手前の状態について
 細胞製造では、原料となる細胞は生体由来であり、個々の細胞が受ける温度、pH、培地成分、酸素濃度など(環境特性)の複合的かつ、わずかな変動が、細胞集団(バッチ)に想定外の逸脱を生じさせることがあります。これらの逸脱は、原因との相関関係を明確にすることが困難で、外れ値として不適合で処理された後、上述のような解析は行われないことが多いと想定します。品証として、製造の安定化を進めるためには、このような予測不能な品質のばらつきを継続的に解析することが望ましいと考えます。
 細胞製造システムでは、細胞の代謝を思った通りに動かすことは難しく、逸脱を完全に回避することは難しいですが、1つの細胞から細胞集団に与える影響は、数理モデルによる、細胞の多様性を考慮したシミュレーションのような道具を開発することで、プロセスへの影響を予測し、最適化することが期待されています。(近年ではAIを適切に活用することも視野に入れて議論が行われていると思います。)当研究室や、東京大学大学院工学研究科 杉山弘和先生の研究グループでは、このような取り組みが進められています。
 筆者は、数理モデルを追求できるほど頭は良くない (涙) ので、これらの詳細を説明することは身に余りますが、プロセスシステム構築において注目すべきことがあります。それは、細胞集団の逸脱が生じる前には、ほぼ必ず、個々の細胞単位において「異常の一歩手前の状態」が生じることです。

 

 

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