医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第62回】

2025/02/21 医療機器

今回は国内通知のアップデートについて述べたいと思います。

国内通知のアップデート

 医療機器の生物学的安全性評価は、ISO 10993シリーズがグローバルには位置しており、それをISO加盟の各国がそのまま、または多少モディファイして取り入れていることを以前お話しました。
 ISO 10993シリーズは、合計で20以上のパートがあるのですが、文書の位置づけとしては上下関係はありません。ただ、part 1である"Evaluation and testing within a risk management process"は実質上の最上位の文書で、ここに基本的なコンセプトと、いわゆる星取表と言われる、医療機器のヒトへのばく露に応じた各生物学的安全性評価項目の評価要否が示されています。
 ご存じのとおりISOは定期的に見直されるのですが、特に星取表が変わるタイミングがたいへんで、今まで必要とはされていなかった項目がマークされたり、大きく内容が見直されたりすることも過去にはありました。

 ISO 10993-1の最新版は2018年版ですが、これが近い将来改訂になるようです。今はもう2025年ですので7年ほど経過しています。このひとつ前の版は2009年ですので、それに比べると少し早いのかもしれません。
 改訂内容は、ISO 10993の委員会であるTC/194で審議されるのですが、少なくとも私が参加していた時の印象では、どこの会議も同じですが声の大きい人の意見に引っ張られる傾向が強く、そこまで踏み込んで記載しなくても...と思ったこともありました。
 ISOですので、欧州の方の意見が強いのですが、グローバル経済では、最近欧州は米国、中国、日本より若干元気がなくなっていますので、今後は勢力図が変わっていくのかもしれません。また、あくまでも私見ですが、欧州の方々は、結構綿密なルールを作るのがお好きな印象があります。いろいろ細かいことをルールブックに書き込んでいくのに比べると、日本はそこまでは時期尚早であれば書き込むことを見送ることが多いように思います。一方で、欧州における実際の生物学的安全性評価の現場ではどうかというと、適当な理由をつけてルールの要求事項が満たされたとして評価をクローズしている例は、本当にたくさんあるように思います。日本人はルールに厳密なので、一度決まってしまうと、徹頭徹尾そのルールを守ろうとする国民性ではないでしょうか。そのため、「あんなこと書いてあるのに、欧州では何かうまくすり抜けている...」という印象がぬぐえません。

 あまり引き合いとしては適切ではないかもしれませんが、往来がない道路の赤信号で、律儀に青信号になるのを待っているのは、恐らく日本人がトップクラスに多く、ドイツでも車が来なければ渡るし、イタリアやフランスでは、車が来ていても渡ろうとする人がいるという印象です。つまり、日本人は、ルールはどんな状況であっても遵守すべきものであると考える一方で、欧州(というかグローバル)では、ルールは守るべきものではあるが、状況に応じて最善の選択肢を採るのが合理的と考えるのかなと思ってしまいます。

 

 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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