ドマさんの徒然なるままに【第71話】Good Practices・Part 1
第71話:Good Practices・Part 1
全体のはじめに
GMPは“Good Manufacturing Practices”の略であることは、GMP Platform読者の皆さんにあっては、当たり前すぎることかと思います。直訳すれば、「適正製造規範」となり、GMP省令として捉えれば、その正式名称は「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」となります。ただ、製薬会社に勤めていた時代から、「GMPが分からない」だとか「GMPは難しい」だとか、といった言葉をよく耳にしています。筆者としては、「GMPは覚えるものじゃない」と思っていますし、「行動として当たり前のことをすれば良いだけ」としか思っていないため、「難しい」と思ったことはありません。正直、「法規制や理屈として考えすぎなんじゃね!?」のように感じています。
そういう方のために、相談を受けた場合や講師を務めさせていただいたセミナーなどでは、「日常の行為として行っている、比喩的なたとえ」として教えています。そんな“比喩的なたとえ”のいくつかを本話Part 1と次話Part 2として紹介しましょう。
なお、「⇒ ●●」として記したものは、GMDPの中で要件や用語として出て来るものを示しています。
● 初めて作る料理?
⇒ SOP、製造指図書(レシピと呼んでいる会社もあります)、試験検査指図書
初めての料理をレシピも見ずに作りますか? 最近はスマホでも見れますが、何らかのレシピを見て作りますよね。このレシピって、製造指図書そのもの、所謂SOPなんじゃないですか。
● アプリのアップデート
⇒承認書、製品標準書
読者の皆さん、スマホのアプリのアップデート、ましてやiOSのアップデートは必ずやるんじゃないですか。スマホのアプリはアップデートしても、GMPの領域となる承認書や製品標準書のアップデートは意識しないってか!? 理由は、スマホの場合はアプリが使えなくなったり、セキュリティに問題が生じたりするけど、会社の作業は従前の経験に基づいてできるから気にしないってか? そういった感覚が、後日に気づいて該当ロットを回収したり、さらには査察で承認書記載事項との乖離を指摘され、GMP違反、薬機法違反として営業停止を喰らったり、といったことに至ってしまうんですけど、考えたことありませんか? GMPの教育訓練って、なんのためにあるんでしょうかね。
● 実験ノート、家計簿、日記(日誌)
⇒記録、記録化、記録書、ログブック
読者の内の多くは、理系出身者かと思います。理系の出身者であれば、種類はともかくとして、何らかの実験を経験しているものと推測します。その際に「実験ノート」をつけたはずです。そもそも記録をつけない実験など在り得ません。科学の基本、実験の基本は“事実を記録として残すこと”ですので。
私は理系でないので実験の経験は無いってか。じゃー、「家計簿」をつけたことはありませんか? どれだけ詳細に残しているかは別です。今日、何をいくらで買った、いくら使った、ということで充分です。さらに言えば、「日記」はつけていますか? あれも記録ですよ。
GMPで言う記録、「自分が実施したことを示す(状況証拠にもなる)物的証拠」です。だからこそ、改ざんや捏造が大問題だと問われるのです。
ちなみに、製造記録や試験検査記録等を「ログ」とか「ログブック」とか言いますが、そもそも論で言えば、ログブックって航海日誌、航空日誌の意味ですからね。
● 実験ノートに残す内容
⇒Data Integrity
前項の続きです。先の実験ノートには、「いつ・どこで・だれが・なぜ・なにを・どうしたか(5W1H)」が分かるように記述しますよね。研究次第では、特許にも影響しますしね。しかも、その残し方については、紙ベースか、PCによる電子化したものか、それらのハイブリットかは問わないですよね。これって、Data Integrityに通じるものですよ。逆に言えば、完全個人使用の日記のような場合には、Data Integrity云々は問われないでしょう。そう考えれば、監査証跡だとかセキュリティといったこと、あくまで管理上の問題だと考えられます。管理上の問題であるからこそ、製造管理及び品質管理の基準とされるGMPで求められるとも言えます。
● 味の異なる複数の食品~意図的ならともかく通常は別々にするのでは?
⇒クロスコンタミ(交叉汚染)、コンタミ(異物混入、汚染)
お宅は、食べる物の味が混ざっても気にしないタイプですか? それとも気にするタイプ? まぁー、その混ざる物(混ぜる物)の種類にも依りますが、最初からごちゃ混ぜ状態はさすがに嫌ですよね。これって、GMPで言えば、クロスコンタミですよ。味が変わらない物だったら平気だってか? たとえば、髪の毛でも昆虫でも平気ですか? さすがに、それは嫌だってか。そもそも、それって異物混入のコンタミですよ!
● 食卓の上で殺虫剤を噴霧しますか?
⇒コンタミ(異物混入、汚染)、構造設備、防虫防そ
食事の最中に食卓の上をハエや蚊、特にハエが飛び交ってしまうことってありませんか? その際、殺虫剤スプレーを噴霧するなんてこと、しますか? 正直言って、食品原料を使った食品用殺虫剤だって使いたくないですよね。まして、室外用の強力な殺虫剤なんて絶対使わないですよね。そもそも、殺虫剤ってGMPでは別施設での製造を求めるようなシロモノですよ。スプレー缶には、間違いなく「注意 - 人体に使用しないこと」ってなことが明記されていますよ。そんなの気にしないって? こんな人がいるからメーカーが困るんですよね。
● 待ち合わせには余裕を持たせますか?
⇒リスクマネジメント、計画書
誰かと待ち合わせする際に、普通は多少の余裕を持って行きませんか? 待ち合わせの相手がビジネスであれプライベートであれ、大事な相手であればあるほど、遅刻することが無いように余裕を図りませんか? どれだけ余裕を持たせたプランになるかは、各人の性格や交通手段にも依存しますが、それって、感覚的ではありますが、リスクマネジメントですよ。
● 初めての場所へのアクセスは事前にチェックしませんか?
⇒輸送ベリフィケーション、リスクマネジメント、計画書
前項にも関わりますが、初めての待ち合わせ場所であれば、そのアクセス経路と所要時間を事前にチェックしますよね。これって、GMP(GDP)で言えば、「輸送ベリフィケーション」ですよ。別にクスリを運ぶわけじゃないって? そうですね。でも、見方を変えると自分自身を運ぶんじゃないですか。
● 明日の天気予報をチェックしませんか?
⇒リスクマネジメント、クオリフィケーション、計画書
前項、前々項にも関わりますが、その待ち合わせ相手が彼女、彼氏であれば、着るもの・持ちものも気になりませんか? そうなると、明日の天気も気になりますよね。彼女や彼氏との待ち合わせでは気にするが、GMPやGDPだったら、まったく気にしないってか。そういう感覚がダメなんですよ。それこそ、そういうダメ感覚が組織のマイナス効果に至らせるんですよ。それって、もろダメなQuality Cultureな会社ってことになりますけど。
● 出張に行く前に必需品のチェックをしませんか?
⇒自己点検、ラインクリアランス、計画書
彼女、彼氏の待ち合わせはともかくとして、それではビジネスでの出張の話に切り替えましょう。出張に行く前には、必需品のチェックをしませんか? 出張目的のための資料等は必ずチェックするでしょうし、それ以外の私物についても、普通はチェックしますよね。複数日に亘る場合であれば、着替えも持つでしょう。これって、やっていることは、「自己点検」でしょ。不要な物があれば、かさばるので逆に抜きますよね。特にフライトが入る場合、機内持ち込み不可の物が残ってたりすれば没収されますので、事前チェックで家に置いておくということしませんか? 筆者、仕方なく空港内の宅配受付で自宅に送り返したことがあります。見方によっては「ラインクリアランス」ですよ。なお、出張は計画的に進めましょうね。えっ、旅行の場合はチェックするけど、出張の場合は“いつも通り”ということでしないってか。うーん、申し訳ありませんが、お宅、失格です。
● 確定申告のための源泉徴収票
⇒文書及び記録の管理
読者の多くは、会社員でしょうか。会社勤めしている際には、あまり意識していないかもしれませんが、自営業であれば必然的に、筆者のような年金受給者であっても、それなりに収入があれば確定申告が必要になります。確定申告には、会社員であれば会社でやってくれていた源泉徴収といった作業を、支払側が作成してくれた「支払調書」を整理し自らが確定申告をすることになります。その他にも、保険の支払いや病院支払いといった控除が期待される領収書等を整理しておく必要が生じます。確定申告、最近は、スマホでも出来るほど簡単になりましたが、以前はマニュアルで記入し手計算せざるを得ませんでした。GMPとして確定申告のようなことはありませんが、確定申告のための支払調書や領収書の整理って、文書・記録の管理そのものです。ポイントとしては、重要な文書や記録は大事に整理し保管しておくということで同じです。
一方で、ちょっと前まで政治資金問題に端を発した政治資金規正法の改正がニュースを賑わせていましたが、どなたか彼らに“Good Practices”を教えてあげてくれません!?
● 避難訓練
>⇒回収処理
皆さんの会社でも年一回は火災または地震を想定しての避難訓練を実施しますよね。では、もし製品回収が発生したら、どうしますか? 「SOPに基づいて行います」ってか。医薬品の製品回収、人命に関わる事象ですよ。SOPを見ながらやっていたら間に合いませんよ。だからこそ、「モック(模擬)回収」が大事なんですよ。「SOPはあるけど、モックまではやっていない」なんて会社さんが多いですけど、大事なことは、『それが起こった際に、どれだけ迅速かつ的確に実施できるか』が問われるんですよ。これこそ、理屈としての“教育(education)”ではなく、行動としての“訓練(training)”ですよ。ちなみに、GMPとして、本邦では「教育訓練」と称していますが、英語では「training」として記述されていますからね、お忘れなく。
Part 1のおわりに
どうでしたでしょうか。GMP要件と全く同じだとも、行うレベルも同じとは言いませんが、目的としては同じことをやっていますよね。その理由はほぼ同じですよね。そうです、これが“事の本質”なんです。この手の話をすると、それを聞いた方は口を揃えて同じことを言います。「へーっ、考えたことが無い。」そこで私の言い分です。同じ目的や理由でほぼ同じことをやっていながら、GMPと言い出した途端に「分からない。難しい。」と言うんですよね。何故ですか? やろうとしていること、やっていることは同じか似ていますよね。もし分からないことがあったら、自分の好きな趣味や興味に繋げてみては、いかがでしょうか。釣りが好きなら釣りの所作や現象に、サッカーが好きならサッカーでよくやる行動や好きなプレーに当てはめて考えてみるといった次第です。
その“たとえ”がどうであれ、自分で納得し理解促進に繋がるもので、結果的にはその行動が第三者にとって有益なことであれば、それが“Good Practices”なんじゃないでしょうか。レギュレーションだって、理解するにあたってのインプット方法まで口出しされる所以(ゆえん)はありません。あくまでアウトプットとしての患者さんへの影響が問われる。そう考えるだけです。
本Part 1では、文書・記録、リスクマネジメントといったことを中心に紹介しました。次話Part 2では、パリデーション関係を中心に紹介したいと思います。
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
パリオリンピック
(本徒然後記、8月15日に執筆しています)
派手な演出から始まったパリオリンピック、4年に一度のスポーツの祭典であることは理解するが、開会式にここまで“お祭り化”した演出を図ることにどれだけ意義があるのか、正直疑問を感じる。そうは言いつつも、何となくTVを見ている自分がいる。大逆転と言える試合とともに誤審 or 疑惑の判定と思われるケースも多かったように思える。また、それ以上にどの国でもSNSでの誹謗中傷が多かった(多い)ようで残念である。
スポーツは勝敗が付きまとう競技であることから、そこには必ず勝者と敗者が生まれる。世間は敗者には冷たい。メダルを取ればスター扱いされるが、取れなければただの人(悪く言えば、出場していたことさえも無視される)扱いである。でも、選手の皆さん、メダル獲得の有無に関わらず、筆者のような特異とするものが無い凡人にとっては、オリンピックに出場しただけで超人レベルの“凄い人”ですよ。その必死に頑張っている姿は美しい以外の言葉が見つかりません。ここに来るまでにどんな苦しい練習をしてきたかは 想像に難くありません。負けたから、メダルを取れなかったからと言って「申し訳ない」なんて謝罪する必要ありませんよ。あなたは、興奮と感動を与えてくれたじゃないですか。観ていたコチラがお礼を述べるのが筋ですよね。ありがとうございました。
そのあなたの頑張っている姿を観て、「私もアレをやりたい」「僕がオリンピックに出てメダルを取る」なんて子が必ずいますから。政治絡みで崩壊しだしているオリンピックの理念、純粋な気持ちで、国を越えて素直にお互いを称えあえる、そんなオリンピックの原点を子供たちに託したい。いや、そうじゃないな。孫と同じ年ごろの選手が競い合っている女子スケートボードを観る限り、そこにはオリンピックの理念の原点が垣間見える。じいちゃんは応援するぞー!
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