経皮吸収製剤 ~基礎から応用まで~【第7回】

2024/06/28 製剤

経皮吸収量とFluxの考え方についてを解説する。

7.目標とする経皮吸収量とFluxの考え方
全身性の経皮吸収製剤の場合、使用性、粘着性や安定性などを考慮して候補処方を考えるが、最も考慮しなければならないのが有効性を示すための有効性を示す血中濃度である。簡易的にはin vitro皮膚透過実験を行い、単位時間当たりの薬物透過量を求める。この目的とする血中濃度になるために必要な経皮吸収速度をFluxという。Fluxを算出するには動物やヒトの皮膚を用いたin vitro皮膚透過試験を、図10に示したFranz cellを用いて実験的に求めることが出来る。

図10 縦型Franz cellの一例

Franz cellで経時的に皮膚透過した薬物を測定して、累積皮膚透過量と時間でグラフを図11のように、吸収速度が一定、すなわち、定常状態での傾きからFluxを求めることが出来る。グラフの立ち上がりまでを、lag timeと呼ぶが、これは皮膚の種類により異なる。一般的にはブタやヒトの場合は、長くなる傾向にある。

図11 in vitro実験からのFluxの求め方

製剤設計する場合、有効性を発揮するためにには、このFluxがどれくらい必要なのかを机上で計算することになる。
ここで、
Flux:単位面積、単位時間当たりの目標とする経皮吸収速度(μg/cm2/hr)
Css :定常状態の血中濃度(ng/mL)(=薬物の有効性を示す血中濃度)
CLtot:全身クリアランス(L/h)
BA:バイオアベイラビリティ
AUC;血中濃度時間曲線下面積(ng・h/mL)
とする。
仮に、経口2mg投与時のBAを100%、AUC280(ng・h/mL)とすると、
CLtot=投与量x BA/AUC≒7.1(L/h)となる。
この薬物を用いた全身性の経皮吸収製剤のFluxは、
Flux x 製剤の面積=Css x CLtot
で求められることから、目標有効血中濃度が10ng/mLとすると、
Flux x 製剤の面積=10 x 7.1 = 71 (μg/h)=1.7(mg/day)
と計算できる。製剤の面積を40cm2とすると、
Flux=1.7(mg/day)/40cm2=1.8(μg/cm2/h)
がこの製剤に必要なFluxとなる。
ここで最初にBAを100%と仮定しているので、BAが100%未満の場合は、Fluxはさらに小さくなり、目標達成へのハードルは低くなる。
この目標を達成するべく、皮膚透過実験を行うことになる。

 

 

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執筆者について

山内 仁史

経歴

1981年第一製薬株式会社(現第一三共株式会社)に入社。研究所 製剤研究センター配属となる。株式会社ディ・ディ・エス研究所、埼玉第一製薬株式会社研究部に出向し、その後ニプロパッチに転籍。研究開発部長、ビジネス開発部長、春日部工場長を歴任。ニプロファーマ株式会社品質保証部参与を経て、現在は公益社団法人日本薬剤学会事務局顧問。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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