医薬品開発における非臨床試験から一言【第53回】

 

酵素阻害と酵素誘導試験


ヒト肝細胞を用いたin vitro酵素誘導試験は、ドナーの個体差も薬物相互作用(DDI)評価に影響を与えるため、探索試験用に10例程度の肝細胞をプールした検体も市販されています。また、1ロットを形成するドナー別の検体数(ロット)も少なく、反応性の良い検体の再入荷は難しく、試験の再現性も困難になります。そこで、予約発注後に試験的にDDIの感度を評価し、反応が良ければ、購入を決定し、液体窒素で保存して使用しています。このような状況から、非臨床でDDIの判断が難しい場合、直接、臨床試験に移行することもあります。

代謝酵素の活性を基準とした酵素誘導の評価と、mRNA発現量を基準とした酵素誘導の評価は、in vitro試験からmRNA発現量を基準とした判断が、タンパク発現量(活性)よりも、感度及びメカニズムの面で優れているようです。

薬物代謝酵素の阻害あるいは誘導によるDDIの試験系を、ガイドラインの観点で取り上げます。DDIでは、相互作用を与える側の被験薬(相互作用薬)と受ける側の被験薬(被相互作用薬)の2種類に分けます。本稿では日本とアメリカの現行ガイドライン要件を参照して示します。

被験薬の阻害作用は、特定のCYP分子種発現系を用いたin vitro代謝試験により評価します。また、被験薬(未変化体)に加えて、主要な代謝物による酵素阻害作用も検討します。未変化体と比較した全身曝露及び化学構造の観点から、代謝物を評価対象とすべきか否かを判断します。臨床で観察されたDDIが、特定の代謝物に起因していると、in vitroでの代謝物による酵素阻害試験が、臨床DDI試験のデザイン及び試験結果の解釈に有用となります。そのためDDIに関連する代謝物の血中濃度測定が重要です。

臨床DDI試験で、被験薬が阻害薬となる可能性は、特定の酵素反応に対する被験薬の存在下と非存在下における基質の固有クリアランス値の比(R値)を算出して、カットオフ基準と比較します。被験薬がカットオフ値以上の場合は、薬物動態学的相互作用を受けやすい基質を用いて臨床DDI試験を実施します。ここでは、メカニズムに基づく静的薬物速度論モデル、PBPK(physiologically based pharmacokinetic)モデル等を用いた検討も有用です。

FDAが示す代謝酵素阻害薬の判定を参照すると、治験薬を用いたin vitro試験の実施では、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3Aに対し、可逆的阻害と時間依存的阻害(TDI:time-dependent inhibition)の両方を評価すべきとされています。データの解析と解釈では、基本モデルを用い、薬物の非存在下及び存在下で、酵素経路のプローブ基質の固有クリアランスの比を算出します。この比は、可逆的な阻害のR1と呼ばれ、CYP3Aの場合、R1,gutのように計算され、TDIの阻害からR2を計算します。
CYP3Aには3A4と3A5がありますが、この2つのCYP酵素は類似するためCYP3Aとされています。

R1値とR2値の判定では、
R1≧1.02、R2≧1.25(Vieira, Kirby et al. 2014)
又は、
R1,gut≧11(Tachibana, Kato, et al. 2009; Vieira, Kirby, et al. 2014)
の場合は、静的モデルを使用して解析するか、指標基質を用いたDDI試験を実施するかを判断します。
 

 

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