化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第17回】

2023/08/04 化粧品

混ぜ方ひとつでナノエマルション! 転相乳化

 

混ぜ方ひとつでナノエマルション! 転相乳化


 ウィッティヒ反応、クライゼン縮合、フリーデル=クラフツ反応、ディールス=アルダー反応・・・。有名な化学反応には、その方法を見つけた研究者の名前がついていて、謎めいていて、かっこいい。化学合成を専門とする研究者は、一度は自分の名前のついた反応を開発したい!なんて憧れるものなのではないでしょうか?実は、これまでに紹介してきたエマルションの世界でも、人名こそついていないものの、業界の常識を覆すような鮮やかな調製プロセスには、固有の名前がつけられて、尊敬の念を込めて呼ばれているのでした。

 そこで今回から、化粧品業界で広く利用されている、有名な乳化方法を紹介します。まずは、細かくて均一な油滴が水相中に分散したO/W型ナノエマルションを調製するために、昔から利用されている「転相乳化」!

 この方法、実は一見、簡単なのです。普通、O/W型エマルションを調製する時は、界面活性剤を溶かした水相をゆっくりとかき混ぜながら、油相を滴下、分散するものなのですが、この方法では界面活性剤を無理やり溶かした油相に水相を加えていく、ただそれだけ。そうすると、最初は油相の中に水滴が分散したW/O型エマルションなのですが、水の滴下量が増えていくと、あるところでくるっっっとひっくり返って、O/W型に変わるのでした。この、くるっっっとひっくり返る「転相現象」を経由してエマルションを調製すると、細かくて安定なエマルションができる・・・。初めてこの現象を化粧品の調製に応用したポーラ化成工業(株)の鷺谷氏の論文によると、普通の方法で作ったエマルション中の油滴は数~数十μmなのに対して、この方法を用いるとサブミクロンのものができる、ということで、現在では化粧品・医薬品・食品などのいろんな商品を作るために、密かにこの技術が使われているのでした[1]。

 それでは、なぜ、混ぜる順番を変えるだけで油滴が細かく、均一になったのでしょうか?実は、この転相乳化法を成功させるためには、単純に混ぜる順番を変えるだけではなく、水相、油相および界面活性剤からなる混合系の状態を精密にコントロールすることが必要であることが指摘されています。
 

 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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