化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第14回】

商品開発の最大の敵! 「合一」を防ぐには?

 それでは、化粧品の開発者を悩ませる合一を防ぐには、どうすればよいのでしょうか?そのヒントは前回説明した合一のメカニズムにあります。一般に、細かい液滴がたくさん分散している状態は、水と油の接触によって発生する界面エネルギーによって系のエネルギーが高く、不安定な状態なので、それを解消するために合一が起こるわけです。しかし、3日で分離してしまうクリームもあれば、10年間もつものもある・・・。この違いは界面活性剤が吸着した界面の界面張力だけでなく、膜の硬さの違いによって生じるのでした。膜が硬くて、しっかりしていると、ブラウン運動によってゆらいでいる液滴同志がちょっと衝突したくらいでは合一は起こりませんが、柔らかくてふにゃふにゃだとすぐに壊れてしまうのです。

 そこでわれわれは最適な界面活性剤を選んで界面張力をなるべく低くし、系の安定化を測るだけでなく、界面膜を固くする努力を積まなければならないのです。

 界面膜を固くするための方法は2つあります。ひとつは、膜の厚さを厚くすることです(図)。薄くてぺらぺらな膜はすぐに破けてしまうけれど、厚~い膜は丈夫でなかなか壊れない・・・。この日常生活の中でも実感できる常識は、分子の世界でも成り立ちます。界面活性剤が配列してできた単分子膜の硬さを示す「弾性率」は、理論的には厚みの3乗で近似できることが指摘されていますし[1]、水と炭化水素系の有機溶媒であるオクタンの間の界面にアルキルトリメチルアンモニウムブロマイドというカチオン界面活性剤が吸着した界面膜の硬さをペンダントドロップ法で評価すると、その弾性率はアルキル鎖長12の時より16の時の方が数十%大きいことが確認されました[2]。また、高分子と界面活性剤がコアセルベーション現象によって複合体を形成すると、分厚く弾性に富んだ膜となることが知られています[3]

 もうひとつの方法は、界面活性剤がぎゅっとつまった、密な界面膜を作り出すことです。膜の厚さが同じなら、単位面積当たりの界面活性剤の数が多い方が、硬くて破れにくい界面膜になる・・・。これもまた、それはそうかな、と思わせる作戦なのではないでしょうか?そんな時にわれわれ化粧品の開発者が着目してきたのが「分子専有面積」という概念です(次ページ文末の図)。これは界面活性剤1分子が水相と油相の界面で占める面積で、飽和のアルキル鎖を1本だけ持つ界面活性剤の場合は、親水基が大きいと分子専有面積も大きく、小さいと小さくなると言われています。つまり、分子専有面積の小さい界面活性剤を選べば、ちょっとやそっとの外部刺激では合一しない、安定なエマルションが調製できる、ということなのです。

 しかし、この仮説の科学的な証拠は長いこと得られていませんでした。単純に分子構造から推察すると、いわゆる石けんと呼ばれる脂肪酸塩は親水基が一つのカルボン酸塩のみで最もコンパクトなように見受けられますが、実際に水溶液の表面張力から気液界面における分子専有面積を評価すると0.57~0.77 nm2で、他の界面活性剤とほぼ同程度・・・[4-8]。界面活性の種類が変わっても分子専有面積に大きな変化は認めらなかったのです。
 

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